【百鬼夜行】は、知性が低い魔物にも円滑に意思疎通ができる力を与える。さらに、自分より弱い魔物に対する命令は絶対。人と魔物がともに暮らす自治領を築く上で、これほど有用なスキルはないだろう。自分より弱いという条件があるとはいえ、リュカやフェリスより強い魔物は、外の世界ではまだ見たことがない。

 トロールは背中に巨大な檻を背負っていて、中には五人の男たちが詰め込まれていた。

「追っていた窃盗団を捕まえた」

 フェリスは、持っていた乗馬鞭をグッと曲げてみせた。

「ソラの縄張りを荒らした外敵だ。いまから全員、氷漬けにする」

 檻の中で、男たちが震えあがる。

「ダメよ、泥棒だって、ソラが治める民であることには違いないんだから。寛大な心が必要よ」

「お前は甘すぎる」

 リュカとフェリスの仲の良さは相変わらず。

「しかし、窃盗団なんてのが出始めたのか」

 多くの人々がこの街に流入してきている以上、その中にはこういった良からぬことを企む輩が入ってくるのは避けられないだろう。

 しかし、そのわりにこの街が平和なのは、リュカとフェリスの率いる衛兵隊が、あまりに迅速にことを片付けるからに違いない。統率に長けたリュカと、武勇に優れるフェリスに、兵士たちを鍛えてもらったのは正解だった。

「ソラ、私が三人捕まえたの! フェリスはふたり!」

 リュカの笑顔の後ろで、フェリスがムッとした顔をする。

「私が足元を凍らせたから、捕まえられたんだろう。すべて私の手柄だと言っても過言ではない」

「なによ! 私だって炎を使って……」

「危うく宝石店が火事になるところだった」

「それならフェリスも氷で時計壊してたじゃない!」

「なんというか、いろいろとお手柔らかに、な」

 俺はふたりの頭に手を置いて、ぽんぽんと叩いた。

「………………」

 急にふたりが静かになってしまう。あれ、また距離感間違えたか? 気をつけないとと思っているのに、ついつい。俺は、

「ふたりとも、ご苦労さま!」

 とひとこと残して、その場を後にした。トロールが遠吠えを上げるのが、背後から聞こえた。