エルダーリッチの笑みが、少しだけ、くすんだ。

「いや……君がなにをするのかは、君が決めなさい」

 背中をとん、と叩かれた。ふたりで森を出て、街に向かう。

 エルダーリッチと俺との距離は、とても近いようで、少しだけ遠い。


  *  *  *


 街に入ると、エルダーリッチとわかれた。彼女は魔法工場に用があるとのことだ。俺は市長(最近まで町長と呼ばれていた)と会う約束がある。

 さびれた村からはじまり、ついに自治領として独立を果たした街は、もはや王都にも引けを取らない発展を遂げていた。

 区画整備された住宅地に、効率的な食糧の生産体制。もちろん娯楽だって充実している。最近は百貨店に映画館を併設した。

 映画の撮影と上映は、巨大映像記録水晶、通称シアター水晶によって可能になった。エルダーリッチの魔法に俺がひと工夫加えたのだ。これはカメラと映写機を兼ねたもので、水晶ひとつあたりにひとつ映画を入れることができる。

 最初はカメラを固定して劇を撮影したような単調なものだったが、それも今はどんどん進化している。俺もたまに、錬金術でVFXを手伝ったりする。その百貨店を通りかかったときに、左腕に抱き着いてきたのが、頭に角を生やした魔王のサレンだ。胸に抱えたポップコーンが、少し落ちた。

「ソラ、次の新しいエイガ、一緒に行こ」

 そして右腕にしがみつくのが、フウカ。

「そうですわお兄様、ぜひぜひ!」

 サレンとフウカは最近、足繫く映画館に通っている。

 しかし――。

「そう……だな……」

 そのラインナップが問題だった。


『ソラ――世界を救った男』

『錬金術師VSサメ』

『人魔の王ソラ ~その軌跡~』

『錬金王密着ドキュメンタリー〝けして振り向かない〟』

『ロード・オブ・ジ・アルケミスト』