エルダーリッチと俺との距離は、とても近いようで、少しだけ遠い。
いま俺は彼女と森の中にいる。魔法の特訓だ。
彼女は俺の背中に身体を添わせて、俺の手首を握っている。
背中に感じる温かさ、柔らかさが気にならない、と言うと嘘になってしまうけれど、ここは集中、集中だ。
「ふたつの魔法を同時に使うときは」
エルダーリッチの細い指が、俺の手首を撫でた。
「体内の魔力の流れを意識しなくてはいけない。突き出た岩が、滝の流れを分かつように、使うべき魔力を割り振るんだ」
耳元で囁く。吐息がくすぐったい。魔法薬の甘い残り香が漂う。俺はやっぱりそういうことを意識してしまうのだけれど、それで気もそぞろになっていては、彼女に失礼だ。俺は彼女の言葉通り、滝のような魔力の流れをイメージする。
今回習得するのは、《門》と《サンダー》を同時に使う方法だ。
《門》は特定の離れた地点、二箇所を接続する魔法。今回は標的の近くに《門》の出口を発生させ、俺は目の前の入り口に向けて《サンダー》を放つ。
つまり、標的の死角から攻撃をしかけるわけだ。
「しかし君は、いつも面白いことを思いつくな」
そう、この組み合わせは俺のアイディアだった。
「良い感じだ、魔力の流れをうまくコントロールできている。今だ」
俺は《門》の出口を空中に出現させる――と同時に《サンダー》を、目の前の真っ暗な《門》の入り口に向けて放つ。背後の《門》からの眩い雷撃で、標的の木は真っ二つに引き裂かれ、メリメリと音を立てて倒れた。
「大成功だな」
エルダーリッチは満足げに言った。
「これは魔法を用いた戦法を大きく飛躍させるだろう。まったく大した弟子を持ってしまった」
そう言って彼女は、俺の頭を撫でる。
「君と魔法の話をしていると、とても楽しいよ……君がもっと魔法について習熟したら、ぜひ共同研究をしたいものだ」
「それは、俺もちょっとワクワクするかも」
研究、なんてガラじゃない気がするけれど、彼女と一緒に、いろんな発見をするのは楽しいだろう。俺が振り向くと、目を細めて涼しげな笑みを浮かべていた。
「君は筋が良いからな。そしてありがたいことに、私はアンデッド。そして君はスキル【永久機関】によって、不老の身体を持っている。そうなれば、研究は永遠に……」