「そういうものかなあ……」
これ以上威嚇する必要はないので、ホエルでの移動はやめにした。帰路は《門》でも良かったのだけれど、サレンが空を飛びたがった。
「みんなホエルに乗って来たんでしょ? 私も、空を飛んで帰りたいな」
「仕方ないわね」
リュカは獄炎竜リンドヴルムに姿を変えた。
兵士たちが再びどよめく。
「それではみなさん、よければまた町に遊びに来てくださいね」
そう言って、俺たちはリュカの背に乗った。大きく翼を羽ばたかせて、リュカは夜空へと飛び立った。
「すごーい!」
サレンは、目をきらめかせた。
星々の中を、リュカは飛ぶ。
「いい夜風だね~」
ホエルは手櫛で髪を梳きながら、気持ち良さそうに言った。
「ソラは~なにか心配事があるの~?」
「まあ、ないわけじゃないよ」
言葉にする気はないけれど、心配なのは、サレンが町で受け入れられるかどうかだ。
かつて、魔王と呼ばれた存在。
魔物を率いて、人間と敵対していた夜の王。
町の人々は、それを許容するだろうか。
もし、それが駄目だったら――。
俺はサレンを見た。
麦わら帽子を小脇に抱えて、夜風に髪をなびかせている。
「どうしたの、ソラ?」
そう言ってサレンは、俺にくっついてきた。
彼女が受け入れられなかったとしたら――別のどこかに旅立てばいいだけの話だ。サレンはもう俺たちの仲間なんだから。
「そうだな、どうにかなる」
「ねえ、なんの話?」
サレンが小首を傾げる。
「なんでもないさ」
「もうっ」
サレンはこてんと、角の生えた頭を肩に寄せた。
「ちょっと! 人の背中でイチャつかないでよ!」
リュカの声が、夜空を震わせる。
やがて夜が明けてきて、遠くに小さく町が見えてきた。
「よし、気合い入れていくか!」
リュカが町の近くに着地すると、俺たちはその背から飛び降りた。リュカは人間態へと姿を変える。
「みんな、サレンのこと、受け入れてくれるといいわね」
リュカも、俺と同じことを考えていたらしい。