俺がフウカに合図すると、庭中にピキッと電流が走った。兵士たちを縛る縄を、一瞬で焼き切ったのだ。

「戦いは、ここまでにしましょう」

「みゅ!」

 ミュウが飛び跳ねると、ビクッと体を震わせる者たちがいた。きっとサレンを助けるときに、手痛い一撃を喰らった人たちだろう。

「………………」

 髭を生やした男が、ひとり立ち上がった。

「私は、彼らを率いる連隊長です。将軍は魔術師と共に〈転移水晶〉をお使いになったので、私が軍の代表としてお答えしましょう……」

 威厳ある声で、連隊長は言った。

「我々に、国王の仇を討つ気は毛頭ございません。王の悪政に不満を抱いていたのは、民衆だけではありません。常備軍たる我々も、忸怩たる思いがあったのです」

 連隊長は、鋭い目で俺を見た。

「錬金王、あなたは国の解放者だ」

 壊れた城を見上げて、連隊長は言った。

「もちろん怯えて逃げ出した兵士は山ほどいる。この庭にいる兵も、あなたに恐怖を抱いている。僭越ながら、私もあなたが怖い」

「そう、見えますかね……」

「しかし、あなたが東の村を大きな町へと成長させたことは聞き及んでおります。あなたの治世によって、我々の恐怖はいずれ薄れゆくことでしょう」

 期待されている、ということらしい。

 ならば、俺はそれに応えなければ。

「城を壊してしまって、すみませんでした。今から錬金術で、修復します。これが治世の、第一歩です」

 そうして俺は、崩れかけた城に向けて両手を広げた。


  *  *  *


「こうなっちゃうん……だよなあ……」

「素晴らしいセンスですわ! お兄さま!」

「うーん……」

 同じ材料を使い回したはずなんだけれど。

 城は黒く禍々しい、悪魔の城と似たようなデザインになってしまった。

「これが……錬金王の力……!」

 冷や汗を流している連隊長に挨拶して、俺たちはそそくさと王城を後にした。

「かえって怖がらせちゃったみたいだな……」

「力をもって治めるということは、きっとそういうことよ。ときには怖いところも見せなくちゃ」

 リュカが慰めるように言った。