「もしなにか困ったことがあったら……アキラたちは嫌がるかもしれないけど、いつでも声をかけてくれ」

 ただ、笑顔だけが返ってきた。

「失礼します」

 そうしてマイは、アキラたちの後を追った。

「ソラ! 城中を回ってきたわよ!」

 現われたのはリュカだった。

「あちこち壊れてるから怪我した人間がいるかと思って、フェリスたちと探したの。けれども、誰もいなかったわ」

「他にも魔術師がいたのかもしれないな」

 エルダーリッチが言った。

「王族は〈転移水晶〉で一斉に避難したのだろう。行き先を追うかね?」

 俺は首を振った。

「いいよ。彼らは彼らで生活していくだろう」

 そう答えると、フェリスがフンと鼻を鳴らした。

「相変わらず甘いな、ソラは」

「そこがいいところなんじゃない」

 リュカが割ってはいり、それにフェリスが言い返す。

「なにも悪いとは言っていない。そう聞こえたのか?」

「まあまあまあ……」

「あら~、なんかお城がボロボロになってるね~」

 ホエルがふらっと謁見の間に現われた。城を覆う巨大な影は、いつの間にか夜空へと変わっていた。崩れ落ちた壁の向こうでは、星が瞬いている。

「建て直さないとだね~」

 次に来たのはフウカだ。

「お兄さま! 拘束した兵は庭に集めておきましたわ! お兄さまのお言葉を待っていましてよ!」

「わかった、行くよ」

 階段は崩壊しているので、フウカの【天衣無縫】を借りて、壊れた壁から夜の中庭にふわりと降り立った。

 兵士たちがざわめく。

「グルーエル様は……」

「国王陛下は……いったいどこに……」

 俺は、彼らの前に立った。

「まずは落ち着いて聞いてください」

 しん……と夜の中庭が静まりかえる。

「国王とグルーエルは、二度と帰ってきません」

 俺が殺したようなものなのだ。ここは正直に、言うべきことを言おう。

「いなくなった国王のために、仇を討ちたいと思われる方もいらっしゃるかもしれません」

 俺は兵士のひとりひとりを見渡した。

「でも俺は、みなさんに新しい生活を営んでもらいたい。勝手に聞こえるかもしれませんが、これ以上の争いは、お互いになんの益もありません」