――魔法は、本当に難しい。

「興味深い? 興味深いィイイイイ!?」

 悲鳴を上げるように、アキラは叫んだ。

「なあ! おいなあ! 如月空! 返せよ! 僕のユニークスキル返せよォォォォオオオオ!!」

「ちょっと待って、やってみるから!」

 しかしステータスを開いて、どこをどういじっても“ユニークスキルの移譲”は見当たらない。

「悪いけど、ちょっと無理みたいだ」

「ングウォオオオオオオオオオン!!」

 アキラはその場でひっくり返って、じたばたと暴れる。俺は元の世界のデパートで、おもちゃを買って欲しいと駄々をこねる子供を思い出した。

「あれがなきゃ僕じゃない! 僕じゃないんだァァァァァアアアア!!」

 アキラはイケメンの部類に入る顔立ちなのだが、今は見る影もない。涙と鼻水でぐしょぐしょになってわめき散らしていた。

「ないわ……いや、ないわ……」

「ない、ないないない、マジ無理……」

 それと比べてカンジとナナは、現実を見失って呆然としているという様子だった。こっちの方が、まだマシに見える。

 で、マイはというと。

「私は、お礼を言わないとですね」

 悲しげに、こちらを見た。

「あんな怪物になった私たちを救ってくださって、ありがとうございました」

 そう言って、深々と頭を下げる。他の三人とまったく違った態度に、俺は驚いた。

「……君はなんというか、冷静だね」

「あまり、力に執着がないのかもしれません。それが良いことか悪いことかはわかりませんが」

 そう言って、少しだけ笑みを浮かべた。

「今までだって、王様の道具に過ぎませんでしたから。魔王討伐も、その誘拐も……思えば、最初から王様の言うことを真に受けず、広い世界に出て行くべきでした」

「すまない。ユニークスキルを返せればいいんだけど」

 マイの背後では、ナナとカンジに両肩を支えられたアキラが、ふらふらと外へと向かう。

「私たちは、思い上がってたんです。力を与えられて、特別な存在になった気がして……滑稽でした」

 もう一度、深く頭を下げた。

「これから私たちは、勇者パーティーとは名乗らないつもりです。いち冒険者として、地道にやっていきます」

「そうか……」

 俺は勇者パーティーがどんな道程を歩んできたのかは知らない。でもきっと、その間マイはいろんなことを考えてきたのだろう。