「耐えられるのはあと一撃ってところか……」

しかし【暴風】を使われれば終わりだ。



――ズゥン、ズゥン、



コカトリスの足音が近づいてくる。あのときと一緒だ。いや、少しだけ、ほんの少しだけ、違う。血まみれのコカトリスが、大きく首をのけぞらせた。くるのはくちばしだ。



――ズドォン!



くちばしは俺の腹の傷口に突き刺さった。腹から吹き出した鮮血が、奴の緑色の血と混じる。最後の一撃だ。最後の。それでも――。

「一撃は……耐えられるんだよッ……!」

俺は左に握った剣で、コカトリスの目を横から串刺しにした。反対側の目から切っ先が飛び出す。確実に脳を刺し貫いた。



――ギョルエエエエエッ!



コカトリスはその巨体を震わせながら、大地を震わせて倒れた。

「ふうっ、ふうっ、ふうっ……」

俺は、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がった。このまま倒れていたら、他の魔物の餌になってしまう。ステータスでHPを再確認すると、ネズミも相手にできないような数字が残されていた。

「……本当に……あと一撃だったんだな」

俺はコカトリス血にまみれながら、痙攣する巨大な首へと歩み、眼窩から剣を引き抜いた。



――ゴキュケッ……



コカトリスの身体は大きく跳ねて森を揺らし、そのまま動かなくなった。

くちばしから魔石が吐き出され、俺はそれを拾い上げた。

「帰らなきゃ……」

なんとか鞘に収めた剣を杖にして、何度も転びながら、俺はなんとか洞窟へと辿り着いた。洞窟の中で身を横たえると、急に寒気がして、身体が震えた。失血とアドレナリンのせいだ。それでも生きている。運が、良かったのだ。

それから、三日は動けなかった。取って置いたレインボーフルーツで飢えをしのぎながら、俺はゆっくりと回復を待った。

「……馬鹿だった」

俺はひとり呟いた。本当に馬鹿だった。相手のことも、よく知らずに戦いを挑んだ。自分が強くなったという快感に、足をすくわれた。この世界はそんなに、簡単じゃない。

「次はもっと慎重に、もっと確実に……だ……」

俺はレインボーフルーツを囓りながら、この反省を心に刻み込んだ。