「うん」

 サレンは、笑みを浮かべる。

「大事なものだよ」

 恥ずかしげに、言った。

「これがあったから、ソラと出会えた。だから大事なもの。でも、もういらないの……」

 俺の肩に、角の生えた頭をあずける。

「王はソラだけでいいって、わかったから。私はもう魔王じゃなくていいの。魔物たちを力で従わせることも、人間と敵対することも、もう必要ない……ソラがいれば、魔王はいらないって、はっきりわかった。だから自由になれたんだ。私にその自由をくれたのは、ソラだよ」

 散らばった〈魔力核〉の破片が眩しい。

 腕の中にいるサレンが、暖かかった。

「リュカたちから聞いたの。みんなはソラに〈誓約の首輪〉をもらったって。それがソラとひとつになるってことだって」

 うるんだ目で、サレンは俺を見た。

「私、ソラとひとつになりたい」

 宝石のような目には、透き通るほど強い決意が見えた。

「不断の契りを交わせば、もう君は魔王には戻れない。本当にいいんだな」

 サレンは腕の中で、黙って頷いた。

 俺はサレンを抱いたまま〈誓約の首輪〉を生成する。サレンが目をつぶると、首輪は吸い込まれるように、細い首にはまった。

「これで……私は、ソラのものだよ」

「君がそう言うなら、サレン。俺も君のものだ」

 サレンは、細い腕を俺の首に回した。

 首筋が、温かいもので濡れた。

「ずっと、ひとりで頑張ってたんだもんな」

 力の源を失って、けれども魔物を統率する責任をずっと感じていて――きっと苦しかったことだろう。

 俺はサレンを、そっと床に立たせた。

「これから、よろしくな」

「こちらこそ、王様」

「その呼び方はよしてくれ」

 照れくさくて、俺は後ろ頭を掻いた。

「……さて、後始末をしないとだ」

 俺は散らばった〈魔力核〉の破片を《鑑定》して《構築》しようとした。これがサレンの力の源なら、元に戻した方がいい。俺が念じると、赤いステータス画面が現れた。

『対象が無効です』

「どういうことだ……?」

「なるほど、〈魔力核〉に錬金術は無効というわけか」

 エルダーリッチが言った。