「わしが国のためにと思って尽くしたことを、全部めちゃくちゃにしおって! すべては……すべては国のために……わしは……!」

「それをアキラたちやサレンにも言えるのか」

「はっ!」

 国王はあざ笑った。

「勇者も魔王も道具に過ぎん! 如月空、貴様なぞ道具以下だったのだ! それが……えらく力をつけたものだな……」

 そう言って、今度は外卑た表情を浮かべた。

「その力を、国のために使う気はないか……? 女も財宝も、貴様の思うままだぞ……」

「王が王に仕えるとはおかしな話だな」

 フェリスが言った。

「そうよ、ソラは私たちの王なんだから!」

 リュカが続く。

「この……魔物どもめ……!」

「もはやここまでです、国王陛下!」

 グルーエルは大慌てで、懐から転移水晶を取り出す。

「………………!」

 ここで逃がすわけにはいかない。俺は床を蹴って玉座へと走った。グルーエルは俺を睨み付ける。

「覚えておれ! 錬金術師!」

「くそっ……!」

 グルーエルと国王は、光に包まれて姿を消した。

「追わなければいけませんわ! 連中に再起の機会を与えては、またお兄さまに害を……!」

 フウカが俺の袖を掴む。

「エルダーリッチ、奴らを追跡できるか?」

「造作もないことだ。あんな稚拙な魔法で逃げ切れるなどと……愚かとしか言いようがないな」

 エルダーリッチは、国王たちが消えた場所の床に手を触れた。

「ソラ、君はミュウと〈不断の契り〉を結んでいたな」

「みゅ!」

 俺の代わりに、ミュウが返事をする。エルダーリッチが続けた。

「ここの床に触れてみたまえ。こんなときだが、ちょっとした授業だ」

 俺はエルダーリッチの言葉に従って、床に手を触れた。ほんのわずかに、温かい。

「《門》を使うときのイメージで、ここから繋がる場所を想起するんだ。それに、ミュウと共有している《遠隔透視魔法》を“絡ませる”」

「それってかなり高度なんじゃ……」

 俺がそう言うと、エルダーリッチは俺の背中を軽く叩いた。

「材料さえ揃えば、なんでもできるのが錬金術師だろう? 大丈夫、君は筋が良い」

「わかった……やってみる」

 俺は床に手を触れたまま、魔力の行く先を追った。忘れたなにかを思い出すような感覚だ。