俺は思わず、腕で目を覆う。

「………………」

 光が治まり、俺はゆっくりと目を開いた。

 あの巨大なキメラは、完全に消滅していた。

 もはや壁も崩れ落ち、荒れ果てた謁見の間。

 そこにはキメラとなっていた勇者たち――そしてグルーエルとサレンが倒れて伏している。

 戦いが――終わった。

「く、く、くそぉっ!!」

 立ち上がったグルーエルが、手のひらから火球を繰り出す。

 俺はそれをミスリルの剣で弾いた。

「よくもサレンを、こんな目に遭わせてくれたな」

「これならどうだ!」

 この魔法は知っている。《サンダー》だ。

 しかしエルダーリッチの教えてくれたものとは、まるで比べものにならない。

 ミスリルの剣を床に突き立てると《サンダー》のエネルギーは、散り散りになった。

「貧相な魔術だ」

 ため息をついたのは、エルダーリッチだった。

「勇者召還だの、追放だの。邪法ばかりに手を染めて……これが王宮魔術師か。呆れるほかないな」

 グルーエルは歯噛みして言った。

「貴様……誰だか知らんが……古代より伝わる〈紫の書〉を中心に研究を重ねた、魔術大系を馬鹿にすることなど誰にも……」

「ああ、なるほど。あれが元になっているわけか」

 エルダーリッチは、あっさりと言った。

「〈紫の書〉なんておおげさなタイトルをつけたんだが、あれは私の落書きみたいなものだ。それを“大系”などと……哀れだな」

「なんだと……貴様、何者だ!?」

 その言葉に、エルダーリッチは笑みを浮かべた。

「ヴァージニア・エル=ポワレ、といえば通じるかな。今はエルダーリッチと名乗っているがね」

 それを聞いたグルーエルの顔から、血の気が引いた。

「馬鹿な! 大魔術師エル=ポワレが……あの古代の伝説が……生きているはずが……」

「いま目の前にある、あるがままを受け入れることが、魔術の基本だ」

「ぬうう……!」

 グルーエルは、急いで玉座へと上った。

「国王陛下、もはや城を捨てて脱出するほかはありません!」

「し、しかし城を捨てるということは国を捨てるという……」

「なにより大事なのは命でしょう!」

「く……くそ、如月空!」

 国王がわめいた。