必ず、ソラを守る。

 ソラより大切なものなんて、もうなにもない。

「馬鹿が! やめろ! 我々は世界最強の存在になったのだぞ! その力を……!」

 グルーエルの軽薄な言葉は、もう私には届かない。


  *  *  *


 サレンの声が聞こえた。

 確かに聞こえた。

 見ると、キメラが動きを止めている。

 その中央が蠕動すると、そこに現れたのは――。

「〈魔力核〉!」

 間違いない、サレンがやったのだ。

 あれほど求めていた〈魔力核〉を、俺たちを利用してまで求めていたあの力を――。

『壊して……』

 サレンの声が、頭の中に響いた。

『もう、いらない……壊して……』

 グググ――と赤い魔力核がキメラの肉体からせり出して来る。

 赤い輝きが、醜悪な皮膚を押しのける。

 これが、サレンの決意だ。

 再び、声が響く。

『ソラがいれば、それでいい……』

 そのささやきは、ひときわ深く、俺の胸に染み通った。

 もはや、ためらいはない。

 サレンは、魔王としての執着から自分を解き放った。

 ならば俺は――彼女の決断を全力で受け止める。

「これで……終わりだ!」

 俺はミスリルの剣を振りかぶり、砕けた床を蹴って跳躍した。

 この瞬間、すべての音と風景は、ノイズと化した。

 やるべきことは、ひとつ。

 狙いは、ただ、ひとつ。

「やめろおおおおおおおおおおおお!!」

 グルーエルの声が、空気を震わす。

 俺はその声ごと、〈魔力核〉を渾身の力で叩き割った。



 ――バキィイイイイイインッ



 赤い結晶が、粉々に砕け散る。

「馬鹿なッ! 馬鹿なッ! 馬鹿なァァアアアアア!!」

 目の前が、真っ白な光に包まれた。