「この世の終わりだ! 押しつぶされて死んじまうんだ!」
「いいから逃げろ!」
「国王をお守りするのが我らの……!」
「“あんなの”からどうやって守れってんだ!」
「竜騎士団! 今こそお前たちの力を発揮するときだ! 大陸一と言われた貴様等精鋭がいればあんな鯨など……ちょっと待て、どこへ行く!」
兵士の長らしき人が怒鳴り散らしている。小さな竜に跨がって散り散りになっていくのが、竜騎士団なのだろう。
やがて大声も聞こえなくなり、兵士たちはあらかた王城から逃げ去ったらしい。
「行こう」
俺たちは、ホエルの背から飛び降りた。衛兵もいない、開けっ放しの正門を堂々とくぐり、階段を歩いた。
「し、侵入者め! あばあっ!」
「誰かこいつらを……ぎゃあっ!」
「止まれ! 止まれええええ!」
リュカの炎に鎧を焼かれ、フェリスに剣を凍らされ、フウカに電流を浴びせられて、残った数少ない兵士たちも、次々と倒れていく。
「ソラは先に行って、私たちはこいつらを片づけるわ!」
兵士を炎の剣で叩き伏せながら、リュカが言った。
「頼んだ!」
俺は走り――そしてとうとう辿り着いた。
閉じられた巨大な扉を蹴り飛ばす。
吹き飛んだ扉は赤い絨毯を削り取り、壁に突き刺さった。
「国王」
俺は玉座で震えている男を睨みつけた。
「サレンを返してもらおうか」
「貴様……そこまで魔王の力を……!」
「サレンが魔王だろうがなんだろうが関係あるか!」
俺の言葉に、国王が震えた。
「おとなしくサレンを渡せ。俺はこれでも怒りを抑えてるつもりなんだ」
「グルーエル! 勇者どもを呼べ! 早く!」
王宮魔術師グルーエルは、静かにこちらを睨んでいる。
「そろそろ、到着する頃でございます」
いやに落ち着いて見えるのが、気になった。
「サレンはどこだ」
「素直に言うと思っているのか? なんでも自分の思う通りにならないと済まないらしいな、如月空。ここへ来たときの情けない態度を忘れているのか?」
「覚えてるさ。だがそんなものは、もうどうだっていい。俺はサレンを返してもらいたいだけだ」
グルーエルは鼻で笑った。
「まだ力を欲するというのか。錬金術師ごときが」
そのとき、後ろから足音が聞こえてきた。