「それは……」
国王も険しい表情を緩ませた。
「ぜひ、口にしてみたいものだ」
そう言って、錫杖をぐっと握った。
「グルーエルよ、錬金術師は来ると思うか?」
「は、間違いなく来るかと。しかしあの町からここまでは、ドラゴンが空を飛んでも三日はかかります。いくらでも、手は打てましょう。その頃には〈接続装置〉の確実な稼働も……」
グルーエルが言葉を呑んだのは、突如鳴り響いた轟音のためだった。続いて、窓から差し込んでいた光が失われる。
謁見の間は闇に包まれた。
「なにごとだ! 灯をともせ!」
衛兵たちが、あわてて明かりを用意する。
「陛下! あれを……!」
そのひとりが、ほとんど叫ぶように言った。
国王は玉座から下り、窓を見た――その上空には。
巨大な、途方もなく巨大な、鯨が浮かんでいた。
* * *
「こんなに速く飛んだの~はじめて~」
ホエルの声が、空に響きわたる。
「君たちの力を合わせればこそだ」
「そうですわ!」
【疾風迅雷】:肉体に雷をまとい、拘束での移動を可能にする。
【天衣無縫】:なにものにも縛られず、重力を自在に操作する。
フウカとホエルのこのスキルを《融合》させたユニークスキルが【天動瞬雷】。自らが移動するのではなく、指定した対象を高速移動させることができるのだ。
「しかしお兄さま、作戦もなしに来てしまいましたけれど……」
「こうして“来た”ということが、ソラの作戦だ。下を見てみたまえ」
エルダーリッチの言葉で、フウカは下界を見下ろす。
「あら、みんな王城から逃げていきますわ」
「ただ移動するだけなら《門》でもかまわなかった。しかしソラがあえてホエルでの移動を選んだのは、連中に気づかせるためだ……誰を敵に回したのかをね」
そこまで傲慢なつもりはないが、エルダーリッチの説明は合っている。無駄な戦闘を避けるためには、こちらを大きく見せるのがいちばん効果的だ。そして事実、ホエルは世界一大きい魔物なのだ。
王城とそれを取り巻く城下町を、ホエルの影はすっかり覆い尽くしている。着地すれば国が滅ぶだろう。
恐慌状態は、上から見ていてもよくわかった。