グルーエルがため息をついた。

「見張りくらい、まともにやってもらいたいものだな」

「………………」

 誰ひとり言い返せないのは、もはや勇者たちが、王国にとって不要なものとなりつつあるからだろう。それを、自覚しているのだ。

「いいか、重ねて言う。絶対に、魔王サレンを傷つけるな。なにを言われようと、耳を塞いでおけ」

 そういって、足音は再び闇の奥に消えていった。

「………………」

 私が望むのは、ソラが間違いを起こさないことだ。

 ソラは優しい。

 私を助けに王城に乗り込むなんて無茶をしかねない。

 ソラは優しい――だからこそ。

 私は、ソラにここに来て欲しくなかった。


  *  *  *


「やはりあの錬金術師は、魔王を奪還しに来るのではないか?」

 国王は、王冠の宝玉をひっかきながら言った。

「あいつのことだ。〈魔力核〉のことはもう聞き出しているに違いない。魔王が〈魔力核〉をコントロールする鍵だとあいつが知ったら……!」

「錬金術師がそれを知ろうが知るまいが、先に力を利用すれば良いのです」

 グルーエルは落ち着き払って言った。

「魔王と〈魔力核〉を接続する魔法装置は、ほぼ完成しました。実証実験はこれからですが……我らが積み重ねてきた魔術大系に間違いはございません」

「……本当に、大丈夫なのだな?」

 国王は、すがりつくように錫杖を握る。いま王国の最大戦力が勇者たちであり、ソラがその力を遙かに超えているということが、不安で仕方ないのだ。

「心配はございません、国王陛下。遠い時代より積み重ねられてきた魔法研究、人類の英知……それが我が魔術大系でございます。《異世界勇者召還》もそのひとつ。それを超える技術や力など存在しません」

 誇らかに、グルーエルは続ける。

「〈魔力核〉を操ることは、我が研究の悲願でもありました。それさえあれば、錬金術師ごとき、相手にするのは造作もないことでございます」

「それなら……良いのだが」

「ご安心ください。魔王討伐よりは厄介ですが、魔術大系がある限り、間違いありません。邪魔なハエがうろちょろしようと、適切な材料がそろえば良いのです。勇者という材料。魔王という材料。そして〈魔力核〉という材料……できあがるのは」

 グルーエルはにやりと笑った。

「“世界制覇”というスープでございます」