私は闇の中にいた。

 いくらもがいても、手足はまったく動かない。

 白い布が私の体中に巻き付き、石柱に縛りつけていた。

「足掻いても無駄です」

 聖女マイの声がした。

「私のユニークスキル【聖女】による“守護”から逃れられる者はいません。たとえそれが……あなたのような」

「魔王であっても、だ」

 破壊神カンジが言葉を継いだ。

「しかしお前も人を見る目がねえな。ソラみたいなクズに助けを求めるなんてよ」

「そりゃ人を見る目があるわけないわよ。魔物なんだから」

 魔女ナナがそう言うと、カンジは下品な声で笑った。

「確かにそりゃちげえねえ!」

 ソラはこいつらと一緒に召還されて、弱すぎるということで追放されたらしい。

 たくさん苦しい思いをしてきたのだろう。

 けれども私は、少しだけホッとしてしまう。

 こんな連中と笑いあっているソラなんて、想像したくもない。

「魔王サレン」

 勇者アキラの声がした。

「あの男は、人間も魔物も、みんな奴隷にする気だ。そんな奴が君を守ってくれるとでも思ったのか?」

 アキラの問いに、私は答えた。

「ソラがどうしたいのか、どうしてお前が知ってるの?」

「なんだと」

「町の人たちに慕われてるソラを、お前たちは見たはず。それなのに。奴隷にするなんて言い方をするのはどうしてかな。まあ、わかるけどね」

 私は笑みを浮かべた。

「ソラが正義の味方だと、お前たちは困るんだよね。敵を悪だと信じなければ、自分たちが何者かわからなくなってしまう」

 しん、と場が静まりかえった。

「おまえたち勇者は、そういう存在でしょう? 心のあやふやな世界から来て、強い力と義務と誇りを与えられて……自分の心のかたちを勝手に決められて……支配者におだてられて、好きなように利用される……それだけの装置」

「おい、いい加減にしろよてめえ」

 カンジの声と、ブン、とメイスの唸る音がした。

「もっぺんここで徹底的にぶちのめしたら、さすがに復活できねえよな? 試してみるか? ああ?」

「やめろ」

 足音と共に現れた、この声はグルーエルだ。

「けして魔王を傷つけるなと、申しつけたはずだ」