「はっ」
グルーエルは転移水晶を取り出した。アキラの肩がびくっと跳ねる。
しかしこれは、悪魔の森に通じている転移水晶ではない。
行き先は――ソラの町だ。
* * *
言葉を、間違えたのかもしれない。
フェリスが俺の甘さや待遇に不満を抱いていた、というわけではなかったのは、本当にありがたいことだ。しかしあのとき、目をつぶったフェリスの意図がわからないほど、俺も野暮じゃない。
「あそこでサレンが来なかったら、どうなってたんだろう……」
食堂でひとりお茶を飲みながら、そんなことを呟いていると――。
「私が来なかったらって?」
思わずお茶を吹き出しそうになった。
「サレン! どうした?」
「いや、別にどうもしないけど……」
そう言って、イスに座った。
「みんな、優しいよ」
サレンは言った。
「でもその優しさに、私は応えられるのかな」
不安げに、俺を見上げた。
「………………」
俺は戸棚からティーカップを出して、サレンの分も注いでやった。
「ありがとう」
そう言うと、お茶をふうふうして、ひとくち飲む。
「また、優しくされた」
サレンは、窓の外を眺めた。
「私は支配することしか知らない。他の方法で誰かと接したことがないんだ。優しくされると嬉しいけど、ときどき不安になる」
「みんな、そうだよ」
俺もお茶を飲んで、言った。
「最初は、わりとぎこちなかったんだ、俺たちも。みんな悪魔の森で、それぞれの思惑を持ってなわばりを守ったりしていた。それでもいろんなことがあって、力を合わせて――今はそれなりにうまくやってる」
俺はサレンに微笑みかけた。
「だからさ。サレンもなにかあったら俺を守ってくれよ。俺もサレンになにかがあれば、必ず守る。約束する」
「うん……」
サレンはちびちびとお茶を飲んで、俺の方を見た。俺は、言葉を重ねる。