衛兵は鼻で笑う。魔王討伐の頃までは、あり得ないことだった。
「貴様らが我々に手を出したと国王様に知れたら、今度は貴様らが悪魔の森にとばされるぞ」
「………………!」
今の国内最大の敵であるソラに、勇者一行がまったく役に立たないことは、城中に知れ渡っていた。かつて皆に払われていた敬意など、もはや欠片も残っていない。出される食事も、日を追うごとに貧相になっている。
「やめるんだ、カンジ。そのへんにしておいた方がいい」
勇者アキラが、小さな声で言った。
「……クソがっ」
カンジは衛兵から手を離す。
「くだらんことはやめて、さっさと来い」
そう言って、衛兵はスタスタと先を歩いた。
「チッ、わかったよ……」
最近は、訓練もたいしてやっていない。ソラとの圧倒的な実力差を目の当たりにして、勇者一行は、すっかりやる気を失ってしまっていた。
「全部ソラの野郎のせいだ。あいつ……どんなあくどい手を使って、あんな力を手に入れたんだ? 俺たちより……そんな、あり得ねえよ」
“強い”という言葉をカンジは避けた。ちっぽけなプライドが、未だにソラを見下そうと躍起になっている。
「ロクな方法じゃないに決まってるわ! なにか……反則をしてるのよ!」
眼帯の取れた魔女ナナは、吐き捨てるように言った。まだこの世界をゲームか何かだと勘違いしているらしい。
「どちらにせよ、私たちは命令に従うしか……」
聖女マイは、小さな声で呟いた。
謁見の間に通されると、アキラたちは膝をついて命令を待つ。
王は言った。
「魔王サレンを、ここに連れて来い」
「なっ……!」
勇者たちに動揺が走る。
「僭越ながら、国王様……」
アキラが、おそるおそるといった様子で口を開く。
「我々は残念ながら……ソラには、敵いません……」
悔しげに顔を歪ませながら、アキラは続ける。
「魔王がソラに匿われている以上、僕たちに手出しは……」
「誰が錬金術師と戦えと言った」
不機嫌そうに、王は吐き捨てた。
「……こっそり、誘拐してくるのだ。脆弱な貴様らがみつからんようにな」
「………………」
屈辱的な命令に、勇者たちは床を睨むしかない。
「かしこまりました……」
「ならば、今から送り込む。グルーエル!」