「やはり国軍を送り込むしか……」
「それも難しいかと」
グルーエルは暗い声で言った。
「ダストン男爵の私兵が“無傷”で追い返されています。あの錬金術師が本気になれば、王国の精鋭部隊とて、正面突破は厳しいかと」
「そして勇者も、彼奴には歯が立たんというわけだ。まったくたいした勇者どもだわい。クズどもが……」
かつて魔王サレンを倒した功績も忘れ、国王は勇者たちを口汚く罵った。
「となれば、だ」
「そうでございますな」
国王とグルーエルは揃って、窓際に鎮座する赤い宝玉を見た。
魔王サレンから奪い取った〈魔力核〉だ。
「あれを実用化し、戦力として投入するほか、道はあるまい」
「そのとおりかと。〈魔力核〉のコントロールさえできれば、あの錬金術師の力を凌駕することでしょう」
「それには、あの忌々しい魔王の力が必要、というわけか。貴様らではどうにもならんのだな」
国王は、グルーエルを睨みつけた。
「力及ばず、申し訳ございません」
グルーエルは歯噛みする。
国王の言うとおり、今のグルーエルたち王宮魔術師の技術では〈魔力核〉をどう足掻いても扱えなかった。
その膨大な魔力によって命を失った魔術師は、六人を数えた。国にとっては、大変な損失だ。
もっとも、国王にとっては“損失”でしかないのだが。
「こうなれば、秘密裏に部隊を送り込む他はないかと」
グルーエルは、声をひそめた。秘密を漏らすような者は城にいないとはいえ、外聞の良い話ではない――つまり。
「誘拐、というわけか」
「そのとおりでございます。真正面からの戦いに力が及ばずとも、隙を突くことは可能かと」
「確かに、魔王サレンは力を失っておる。誘拐というのは良い考えだ。勇者どもをここへ!」
グルーエルは謁見の間を出て、衛兵に勇者たちを呼んでくるように命じた。
あてがわれた部屋から呼び出されたアキラたちは、ぞろぞろと謁見の間に向かう。
「またソラの野郎か? 俺たちじゃもう、どうしようもねえよ……」
破壊神カンジが呟くと、衛兵が言った。
「口を慎め、貴様らは国王様の勇者なのだぞ」
「ンだとてめえ!」
カンジは衛兵の胸ぐらを掴んだ。
「てめえなんざ、今すぐ消しズミにしてやってもいいんだぞ?」
「やれるものならやってみろ」