「俺は君の忠告を軽んじてしまっていた。大事な仲間の言葉なのに、それを真剣に受け止めていなかった。君が怒るのはもっともだ」
「……その、頭を上げてくれないか」
予想外の行動と言葉に、私が言えるのはせいぜいそれぐらいだ。
ソラは私の言葉どおりに頭を上げると、少しずつ近づいてきた。
「俺はやりたいことばかりやっていた。でも、本当に大切なものがなんなのか、よくわかった。だから、卑屈になるのはよしてくれ」
そう言ってソラは、私の両手を掴んで胸の前で握った。
「これだけは、伝えたい……」
なにが来るのだろう。
いったいなにが。
だめだ、混乱して思考の整理がつかない。
顔が近い。匂いがわかる。
ソラは言った。
「俺は本当に、君のことを大切に思っている」
私の手をぎゅっと握った。
ソラの手のひらから、熱が伝わってくる。
くらくらする。
以前、エルダーリッチと話したことが頭を過ぎった。たわむれに尋ねたのだ。
『人間は、どうやって子を為す?』
『無論、交尾によってだ。ちなみに人間は胎生だ』
『子を産む余裕があれば、交尾を始めるのか?』
『そう単純じゃないさ』
エルダーリッチは笑っていた。
『しかるべきときに触れ合い、手を握り、愛の言葉があり、くちづけを交わす……それから互いを求め合うわけだ』
あのとき笑ったエルダーリッチは、いまこのときを予見していたのだろうか。
ソラが、こんなに近くで、私の手を握っている。
今がしかるべきときなのか?
ソラの言葉は、愛の言葉か?
嫉妬なんて、馬鹿な気持ちを抱いたものだ。
いまの私が、すべきことは――。
「………………」
私は、そっと目をつぶった。
消極的なのかもしれない。
けれどもソラが私とのくちづけを望むのであれば、私は応えたい。
それが互いを求め合う第一歩なのだと考えると、耳まで熱くなってくる。
なにもかも任せるのは、無責任だ。
けれどもいま私は――無責任になりたい。
ぜんぶ、ぜんぶソラの好きにして欲しい。
ソラの気配を濃厚に感じる。
ほかに、私の意識にはなにもない。