サレンは魔王を名乗っていたらしいが、なんともいえない愛嬌がある。ああいう存在を見ると、人間は守りたくなるものなのだろうか。だからソラは――いや。

 私も〈誓約の首輪〉で、ソラに傷を癒してもらった。ソラは、助けられる者は誰だって助けてしまうのだ。だから愛嬌などとは関係なく――しかしそんなもの、私は持ち合わせていない。たぶん、サレンの方が、可愛らしい。

 そんなふうに思考がグルグルして、最後には自己嫌悪に到達する。でも、そんなことは関係なくソラはみんなを――また、思考が始まる。

 私はやはり、心が狭いのだ。とてもホエルのように、寛容にはなれない。

 私だけのソラであったなら――そんなことまで思考にチラつく。

 どんどん、心が汚れていっている気がする。

 とても腹立たしい。

 もちろん、こんな自分に対してだ。

 そんなふうに自己嫌悪に陥っていると、部屋のドアが叩かれた。

「俺だけど……」

「入れ」

 後ろ頭を掻きながら、ソラが入ってきた。

 やっぱり、さっきひどい態度を取ったことについて、叱られたりするのだろうか。

 ソラには嫌われたくない。なにを言われても、素直に受け入れよう。

 そんなことを思っていると。

「ちょっと、散歩にでも行かないか?」

「……皆で出かけるのか?」

「いや、君とふたりでだ」

 エルダーリッチから聞いたことがある。男女でふたりきりで散歩することを、人間の間ではデートと呼ぶらしい。

 素直に聞いてみた。

「デートか?」

 すると、ソラはまた頭の後ろを掻いた。

「まあ、そうだな。それでいいと思う」

 煮え切らない態度だが、そういうことらしい。

 どういう風の吹き回しだろう。

 デートというのは、親睦を深めるために行われるらしい。ソラはなぜこのタイミングで、私と親睦を深めようとするのだろう。疑問は尽きない。

「とりあえず、百貨店にでも行くか」

 百貨店というのは、ソラの建てた巨大な商売人の城だ。五階では、美味しいラメンを食べることができる。

「ついでに、雑貨屋にでも寄ろうか」

「ザッカヤ?」

「アクセサリーとか、ちょっとした文房具とかが売ってる店だよ」

 ふたりで並んで町を歩くと、なんだか心地良い。こういうのはとても、久しぶりな感じがする。自己嫌悪で落ち込んでいた気分も、上向きになってきた。

 しかし。

「あ、王様! 見てください、ブローチが壊れちゃったんですよう」