この町はいま独立に湧いているけれど、いつまでもお祭り騒ぎをしているわけにはいかない。

 使者のグルーエルをひっぱたいて追い返してしまったし、国王は相変わらずサレンを求めている。なにか手を出してくるかもしれない。

 たとえば交易路の封鎖や、河川の汚染。そういうことをされてしまうと、町の人々を守りきれないかもしれない。

「孤立による弊害を防ぐためには、領土を広げるしかない。しかし領土を広げれば、争いが起こる。難しい立場だね、練金王」

「その呼び方はやめてくれ」

「冗談だ。ほら、早く飲まないとお茶が冷めてしまうぞ」

 エルダーリッチの淹れてくれたお茶は、甘い独特の香りの中に、わずかな優しい苦みがあった。

「特製のハーブティーだ。張りつめた神経をリラックスさせる効果がある」

 そう言って、笑顔を見せた。

「サレンもそうだが、君もあまりひとりでなにもかも背負い込まないことだ。そのために私がいるし、リュカたちもいるのだからね。そうそう」

 思い返したように、エルダーリッチは言った。

「フェリスがえらく機嫌を損ねていたな。フォローしてやるといい」

「わかった。お茶、ごちそうさま」

「また飲みたければ、部屋に来なさい」

 俺はエルダーリッチの部屋を出た。

「………………」

 確かに、フェリスが腹を立てるのも、もっともかもしれない。

 フェリスから見れば〈悪魔の森を統べる王〉なんて肩書きを背負っておきながら、脇の甘さでサレンにうまく利用されていたわけで。これは王としてどうなんだろう。

 それに、フェリスは何度も「サレンに気をつけろ」と警告していたのだ。俺は、それを無視していたようなかたちになる。

 そうして俺は町でのんきに、ひたすらやりたいことをやっていた。ずっと警戒を怠らなかったフェリスを放っておいて、だ。

 そりゃ、怒って当然だろう。

 軽く見られていると思われても仕方がない。

 フェリスが大事な仲間だということを、改めて、ちゃんと伝えなくてはいけない。

「よし……!」

 俺は、フェリスの部屋のドアをノックした。


  *  *  *


 さっきは食堂で、心の狭いところを見せてしまった。

 ソラがサレンを庇っていると、よくわからないイヤな感情が湧き出てくる。

「………………」