「私はそれがいちばん気に食わない」

 そう言って、こちらを睨んだ。

「外の魔物がどうなろうと私の知ったことじゃない。でもソラが外の世界を知らないことにつけ込んだ。その小賢しさが腹立たしいな」

 フェリスの言いたいことはよくわかる。

 私がフェリスと同じ場所にいたら、私は私のことをけっして許さないだろう。

「俺がサレンと同じ立場なら、きっと同じことをしてるよ」

「下手なフォローはよせ。ソラの性格上、それはない。私がいちばんよく知っている」

 それは、私にもわかることだ。

「でもね~」

 立ち上がったのは、ホエルだった。

「ひとりで人間から逃げてたんだよね~。それって~、最初に悪魔の森に来たときの~、ソラと同じなんだと思うな~」

 そう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。

「だからね~、サレンはね~、頑張ったんだよね~」

 身構えていると、

「フェリスは怒ってるけど~、ちゃんと味方なんだよ~、だからね~、安心していいからね~」

 ぎゅっと、と抱きしめられた。

「もうね~、大丈夫だよ~」

 顔が、温かい胸にうずもれる。

 その瞬間、限界が来た。

 力を失ってからの孤独の日々が、一気に胸の中で押し寄せてきた。

「うっ、うっ、うっ……」

 私はホエルの胸に顔をすりつけた。

 また、私は、泣いている。

 あの雨の日と同じように。

 私は泣いてばかりだ。

「いっぱい頑張ったんだから~、いっぱい泣いてもいいんだよ~」

 頭を撫でてくれるホエルの手が、心地よかった。


  *  *  *


 サレンの告白のあと、俺はエルダーリッチの部屋に呼ばれた。

 新しい部屋はすっきりと片づいていて、風通しがいい。本棚には、分厚い本が数冊並んでいるだけだった。

 悪魔の森にある彼女の部屋は、本棚から飛び出した本でぎっしりだった。ここもじきに散らかるのかもしれない。

「国王がサレンを引き渡せと言った理由がわかったな」

「ああ」