「確かに、王国と事を構えるのは一大事じゃ。しかし……感謝しておる」

 星を眺めながら、町長は言った。

「ここまで村に、町に尽くしてくださったソラどのに、そしてそのお仲間たちに、犠牲を強いるなど耐えられんよ」

 お茶をひと口飲んで、町長は俺を見た。

「それに、わしらはもっと早くにそうするべきだった。村が貧しくなる前に。若者が労役に取られる前に。重税を課される前に。わしらは戦わねばならなかった……しかし、わしらは怖かったんじゃ。その怖れゆえに、滅びようとしていた」

 町長は、感慨深げに言った。

「どのみち、町の人間はみな王国に嫌気が差しておる。今この町には、王国に刃向かうだけの気概があるはずじゃ。ソラどのが、町をそこまで導いてくれたからの」

 そう言って、俺の手を握る。

「わしにできなかったことを、ソラどのはやってくれた。その行動を、わしは町の代表として、全面的に支持しよう。本当に、心から感謝しておるよ」

 俺は町長の手を握り返した。

「ご理解いただけて嬉しいです。これからも、よろしくお願いします」

「こちらこそじゃ。明日は集会を開いて、みなに話をせねばならんな。もちろん、サレンどのが魔王だという件は、まだ伏せておかねばならんじゃろう。みなにも、心の準備というものがあるからの」

「助かります」

「おお、そうじゃそうじゃ」

 町長は思い出したように言った。

「ソラどのとお仲間の家は、あの小屋ひとつじゃったの。近いうちに屋敷など持たれてはいかがかな。南に土地がまだ空いておる」

 あの小屋は悪魔の森にある城に繋がっている。住居には不自由していないのだ。

「大丈夫です、お気遣いなく……」

「そうはいかん、ハッタリは必要じゃ。立派な屋敷を建ててくだされ。なにせ、ソラどのは我らが王なのじゃからな」

「……わかりました。必要なのであれば」

 俺にも、立場というものができ始めているらしい。

 いつしか雨も止み、空には月が昇っていた。

「すみません、ずいぶん長居をしてしまいました。このあたりで失礼いたします」

 俺は、カップに残ったお茶を飲み干した。

「服はまた届けさせよう。ではソラどの、良い夜を」

 もういちど町長に礼を言い、俺は彼の家を後にした。


  *  *  *


 翌日。