私は物陰から出ると、ソラに思い切り抱きついた。

 涙と嗚咽が止まらない。

 私はソラを利用しようとして。

 それが最近は、ずっと苦しくて。

 目が合わせられなくて。

 もう、限界だった。

「約束する、絶対に離さないからな」

 ソラが私の背に手を置く。

 私はますます強くソラを抱きしめる。

 濡れた帽子が、石畳に落ちた。

 むき出しになった、角の生えた頭。

 それをソラは、優しく撫でてくれた。


  *  *  *


 サレンとフェリスを城に帰すと、俺は町長の家に向かった。

「おお、ソラどの……どうしたのじゃ、びしょ濡れではないか」

「すぐに、お話したいことがありまして」

 俺は玄関に立ったまま、町長にことのあらましを説明した。

 国王の使者が、魔王サレンの引き渡しを条件に講和を持ちかけてきたこと。そして、それを追い返したこと。すべて、伝えた。

「ふむ……」

「俺は自分の仲間を守るために、この町を危険に追いやりました。本当に申し訳ない。取れるだけの責任は取ります」

「………………」

 町長は、腕を組んでじっと考え込んだ。

「……ともかく、ソラどの。そのままでは風邪をひいてしまう。ちょうど風呂を沸かしたところじゃ。入っていかれるがよろしい」

 俺は町長の言葉に甘えて、風呂に入った。

 サレンやフェリスも今頃、城の大浴場で体を温めているのだろうか。ふたりは、どんな話をするのだろう――。

「……ふう」

 考えることは、とても多い。考えても仕方がないことは、もっと多い。俺は、できることをできる限りやるしかない。

 風呂から上がると、用意されていた服に着替えて、町長のいる部屋に戻った。

「ありがとうございます、町長」

「……こちらこそ、じゃ」

 俺は町長に促されて、イスに座る。テーブルには、お茶が用意されていた。

「ソラどのが風呂に入っておる間、ずっと考えていたんじゃ」

 窓の外は、雲間から星が見え始めている。