ソラは、私の正体について、なにも聞かない。

 ただ、守ってくれている。

 最近は、ソラの顔をまともに見ることができない。

 ソラにもらった帽子に、いつも顔を隠している。

 ただ、その帽子のつばを貫いて、突き刺さる視線もある。

 ――フェリスだ。

「話したいことがある」

 ソラとフェリスの姿を見て、私は慌てて物陰に隠れる。

「エルダーリッチから聞いたが、吸血鬼のスキルは、相手の力を奪うことだそうだな」

「らしい、な」

「そんな奴を、どうして懐に置いておく?」

 少し間を置いて、ソラが答えた。

「俺が、君にカレーを持って行ったときのことを覚えてるか?」

 フェリスは答えない。ソラは続けた。

「あのときの君と、サレンは同じ表情をしてたんだ……それは、理由にならないかな」

「ソラは、優しすぎる」

 フェリスはソラに背を向けた。

「優しすぎて……それがときどき、つらい」

 その表情は、こちらからは見えなかった。

「……つまらないことを言ったな、ソラ」

「いや、こっちこそ心配かけてすまない」

 ソラは、フェリスの肩に手を置いた。

「でも、サレンは俺たちが守らなきゃいけないと思うんだ。サレン自身がなにを考えているにせよ」

 その言葉に、私の胸がきゅうっと痛んだ。

「わかった。私は引き続き警戒を続ける」

「ありがとうフェリス。よろしく頼むよ」

 私は、ソラを利用している。

 自分の浅ましさが嫌になる。

 たぶんこれからも、私はソラの目をまっすぐ見ることができない。そのとき。

「ソラ」

 フェリスが町の入り口の方に目をやった。

「まだ遠いが、蹄の音だ。馬車が一台、騎兵が四……」

「またダストン男爵か? ともかく行ってみよう」

 ソラとフェリスの後を、そっと私も着いていった。


  *  *  *


 馬車から降りてきたのは、ダストン男爵ではなかった。

「お前は……」