「しょっぱ!」

 サレンはぐいっと飲んでしまったらしい。慌てて水筒の水を飲んでいた。

「ただの塩水だよ……」

「そうかもな」

 俺は、水に《鑑定》をかけた。すると、ただの塩水ではない。

〈アルカリ塩水〉

 緑色に浮かび上がった、その画面を見てピンと来た。

「鹹水だ!」

「かんすい?」

 サレンが小首を傾げる。

「麺を打つのに使われる水だ……ってことはだ」

「てことは?」

「そう……そうだ、ラーメンが食える!」

 俺はその場で飛び上がった。

「ソラ、ラメン、ナニ?」

「ラーメンだ、ラーメンだよ!」

 めちゃくちゃ懐かしい。この世界は食材が豊富だし、町には料理人もやってきた。しかし麺類だけはどこを探してもないし、材料も揃わなかったのだ。

「ミュウ! サレン! 俺はしばらく百貨店の厨房に籠もる!」

 俺は急いで町に戻ると、百貨店の料理人に声をかけた。

「どうしました、そんな息せききって」

「俺と一緒に研究をしてください! 一緒にラーメンを作りましょう!」

「ラ……メン……?」

 俺は料理人にラーメンについて説明する。言葉はいくらでも出てきた。食感に、味に。料理人は興味深そうに俺の話を聞いてくれた。

「もしそのラメンが完成すれば、うちは大賑わいだ!」

 こうして研究が始まった。

 鹹水の割合、生地の作り方、麺の打ち方――。

「ピザ生地の技術が、ある程度応用できるかもしれん。だが、挑戦としてはまったく新しいものだ。腕が鳴るぜ!」

 それから厨房に籠もりっきりで、俺たちはラーメンの研究に取り組んだ。

 そして一週後。

 俺は鳥の骨から取ったスープに、茹でた麺を入れた。麺作りの合間を縫って、スープの研究も進めていたのだ。鳥ガラ、悪魔の森の岩塩。魚の練り物に花の色素を混ぜて、ナルトも作った。イッカクシカの肉は柔らかく、これはチャーシューに適している。

 このスープだけでも店に出せると料理人は言うのだが、俺は――俺はラーメンが食べたい!

 これで何度目か、もうわからない。けれども、こんどこそ。俺はそっと、麺をすすった。

「………………!」

 あの感覚がよみがえる。大学の近くにある有名店。学生は大盛りが無料だった。ときには行列もできる――そんな店の。

「これだ……この食感だ……!」