どよめく商人たちの中を抜けて、俺は建設予定地を選ぶために町へと出て行った。

 どうせなら、五階立てくらいの大きな百貨店を建ててしまいたい。あまり住宅地や農地に近いと、日陰になってしまう所が出そうだ。ある程度距離をおいて、かつ通いやすい程度の場所。

 小さな川に橋をかけた、あの辺りがちょうど良さそうだ。城を建てるほどの手間はかからない。近くの山で良質な石が採れることが最近わかったので、建材には不自由しなさそうだ。

「よーし、やるぞ!」

 城を造った経験が、ここで大いに活きた。俺がいた世界の百貨店を思い出しつつ、町の風景を壊さないようにデザインには細心の注意を払う。町の人々にとっては、ここが新たな町の中心になるだろう。

 そしてきっかり三日後、店を構えたい人たちを片っ端から呼び寄せた。

「これは……城……?」

 商人たちは、百貨店を目にするなり、あんぐりと口を開けた。

「その通り、皆さんが商売をするための城です」

 俺はみんなに中を案内した。百貨店はコの字型に造ったので、どこのテナントも、外から光が入るようになっている。窓は普通の住居や城よりも、ずっと大きく造ってある。階によって売り物の傾向が異なるのは、俺がいた世界の百貨店と同じだ。

「こんな巨大な市場は見たことがない!」

「ここで商売ができるのか……!」

 目を輝かせている商売人たちの中で、ひとりが手を挙げた。

「ひとつ、尋ねたいことがございます」

 彼は、確か料理人だ。

「食遊街は五階ということになっているようですね。しかし足腰の弱った老人が、そこまで階段を昇って料理を食べたがるでしょうか?」

 確かにそれはもっともだ、と声が上がる。

「一階の商店ばかりが儲かることになるのでは?」

「それについては、ご安心ください」

 俺は商売人たちを、百貨店の奥へと案内した。ボタンを押すと、扉が開く。

「なんですかな、この小さな部屋は?」

「エレベーターというものです」

 これには、邪龍アジ・ダハーカを倒したときに得たスキル《永久機関》が役に立った。本来は肉体の劣化を防ぐスキルだが、それを錬金術に応用すると、電力なしで駆動する機械を造ることができるのだ。

 もっともこればかりに頼っていては、町は機械仕掛けのブラックボックスになってしまう。エレベーターは、老人や小さな子供を連れた親が、自由に買い物をするための苦肉の策だった。

 俺はさっきの料理人と、商売人の何人かをエレベーターに案内した。彼らはおそるおそるといった様子で、中に入る。

「この階数の書かれたボタンを押してください」

 料理人が言われたとおりにボタンを押すと、ドアが閉まる。エレベーターがかすかに揺れ始めた。