俺はサレンの帽子をぽんと叩いた。

「町の中心から、なるべく離れるんじゃないぞ」

 また、帽子が頷いた。

「じゃあ、いってくる」

 役場の前に着くと、リュカの言ったとおり、大きな荷物を牽いた馬車でごったがえしていた。中にはいると、商人たちが村長を囲んでいた。

「王国では、もう商売にならん!」

 商人が口々に言う。

「税金がひどくて、売れば売るほど赤字だ!」

「おまけに領主へ賄賂を送らないと嫌がらせときたもんだ!」

「どうかこの町で商売をさせてもらえないか?」

 村長が困った顔で腕を組む。

「商人が集まるのは嬉しいことなんじゃが、もう空き家がのうてな……住人を追い出すわけにもいかんし……おお、ソラどの! 実はよその町の商人が店を構えたいと言うておるんじゃが」

「なるほど、確かにもう空き家はありませんね」

「おお、あなたが噂の錬金術師か! なんとかなりませんかな?」

「そうですね……」

 確かに町はもう新しい住人でいっぱいいっぱいだ。となれば。

「町がこれだけの規模になったんです。商店街を作るのはどうですか? そこで買い物をすれば、なんでも揃うような」

 商人たちから、おおっと声が上がった。

「素晴らしい提案だ!」

「また商売ができるぞ!」

 沸き立つ商人の間を縫って、小さな体が近づいてくる。

「はい、失礼いたしますわ! ごめんくださいまし! あら失礼! ……ふう、やっと辿り着きましたわ、お兄さま!」

 フウカは書類の束を抱えている。

「今日は移住申請の方が、かなりいらしていますわ……ええと、料理人、医者に薬師、占い師に呪術師とよりどりみどりで……」

「……呪術師?」

 うさんくさくも思えるけれど、職業に貴賎なしだ。彼らも商店街に組み込むのが良さそうだけれど、そうなると住宅街から離れた場所にある商店が不利になる。それにそこまで土地を広げてしまうと、新たな住宅街を作るのが難しくなってしまう。

 外の馬車を見る限り、同じ商売をしている人たちもけっこういそうだし――となると。

「商店街よりは、百貨店を造る方が良さそうですね」

「百貨店といいますと?」

 商人たちは興味津々だ。

「大規模な店をひとつ造って、その中でみなさんに商売をしてもらうんです」

「ひとつの店の中で商売を?」

「これだけの商人に店がひとつというのはさすがに……」

「三日ほど頂ければ、用意しますよ」