こういう当たり前のことをするだけで、彼らは喜んで働いたし、またその成果も素晴らしいものだった。

「この町に来てから、毎日が楽しくて仕方がない!」

「来て良かった! 本当に素晴らしい所だ!」

 学者にしても、教育者や法学者だけでなく、もちろん科学を志す人たちも多く集まった。

 俺が新しく建てた研究所に出向くと、彼らにお願いされて、錬金術をいくつか披露した。薪を一本用意して《抽出》《分解》《構築》と、いろいろとやってみた。

「これが……錬金術!?」

 学者のひとりが驚きの声を上げる。

「我々が知っている錬金術とは、まったく違う……!」

「まるで魔法……いや、魔法とも違う……」

「ユニークスキルと呼ばれる能力のことは聞いているが、この力はそれを遙かに超えている……」

 薪で人形を作って樹脂で固めたそれを、学者たちは興味深げに観察した。

「そもそも錬金術は、世界の内奥を探るための術だったのです。錬金術師が研究室から出ることはほとんどなかった」

 学者のひとりが、人形を眺めながら語った。

「しかし貴殿は剣を携え、世界を歩き、町を造り……言うなれば、歩く研究室だ」

 人形を他の学者に手渡して、続ける。

「そして、魔法までも習得していると聞く。非常に興味深い存在ですな……」

「ちょっと、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「無論、なんでも仰ってください」

 白髪の学者は、丸メガネをクイと上げた。

「その……錬金術と魔法って、どう違うんでしょうか?」

「私が答えよう」

 出てきたのはエルダーリッチだ。エルダーリッチは、この研究所の顧問ということになっている。

「現代の私の研究と彼らの研究とのすり合わせも兼ねて」

 数百年前から魔法を研究し続けているのだ。彼女の上を行く魔法研究家はこの世に存在しないだろう。

 エルダーリッチはチョークを持って、黒板に図を書き始めた。

「魔法というのは、宇宙創造において神が使いたもうた力の、その残滓を活用しているとされている」

 黒板の上に、太陽のようなものが描かれた。これが、この世界の神なのだろう。宗教についても、いずれ学ばなければならないかもしれない。

「その残滓が、いわゆる魔素と呼ばれるもので、その力がこの世界には、普通の人間が想像する以上に満ち満ちている。空気に、木々に、水に、そして食べ物にも」

 黒板に、世界と人間が描かれる。

「生きるということは、呼吸し、摂取し、排出することであって、この営みの中で人は魔素を体内に蓄積させる。この蓄積した魔素のことを魔力と呼ぶわけだ」

 人間の絵の中心に、渦巻きができた。