「手詰まりか……」
国王は、王冠の装飾をガリガリと掻いた。
「ひとつ、手がございます」
グルーエルが言った。
「それは、元の持ち主に〈魔力核〉を使役させることです」
「魔王に〈魔力核〉を引き渡すというのか! そうなれば再び力を取り戻してしまうではなか!」
「そうではございません」
グルーエルは暗い笑みを浮かべた。
「今の魔王は、ちっぽけな魔物の一匹に過ぎませぬ。《洗脳》をかけて傀儡と化せば、〈魔力核〉から力を引き出すための装置として使えるでしょう」
「魔王の捕獲が最優先か」
「それでは、僕たちで魔王の探索を……」
勇者アキラの言葉を、国王は制した。
「まだわからぬのか? 魔王は、あの錬金術師の手の内にあるのだ!」
「なっ……!」
勇者アキラは、目を見開いた。国軍が力を失った魔王を追っていることを知らなかったアキラは、当然ソラが魔王を保護していることも知らない。
「マジかよ……あの野郎……」
破壊神カンジが、密かに毒づく。
「それに関しても、案が」
冷や汗をかいている勇者一行とは対照的に、グルーエルは落ち着き払って言った。
「強大な力を持っている彼奴を相手に、軍で対抗するべきではありません」
「では、どうすべきだと言うのだ」
「戦いの舞台を、戦場から政治へと移すのです」
「ふむ……」
「この際、彼奴の領地を、ひとつの勢力として認めてしまいましょう。そして国境を定めるのです。領地を手放すのは小さな痛手ですが、一時的なものです。あの錬金術師が擁する“魔王サレン”の利用価値は、きわめて高い。それに」
グルーエルは続ける。
「私見ではございますが、おそらくあの魔王も〈魔力核〉を完全には使いこなしていなかったのではと考えております。〈魔力核〉の研究を魔王を“用いて”行えば、相応の成果を出せるでしょう。そうなれば陛下は、錬金術師に十分対抗できる力を手にするのです」
そう言って、にやりと笑った。
「その力をもって錬金術師を抹殺し、再び領地を陛下のものとすれば、万事が解決するかと」
「なるほど」
国王はあご髭を撫でて、命じた。
「ではグルーエル。貴様を使者として錬金術師の許へと派遣する」
グルーエルは、深く一礼した。
「仰せのままに」