軍隊の行進が、止まった。

「錬金術師ィ!」

 軍隊がふたつに分かれ、間からダストン男爵が出てきた。

「怖れおののけ! わしから領地を奪い、民を奴隷のように扱う貴様の所行が、罰せられるときがきたのだ!」

 村の人々を奴隷にしてるなんて、どこから湧いた情報なんだろう。おそらく自分がしてきたことは、他の人間も同じようにするはずだ、という発想だろう。

「ダストン男爵!」

 俺は叫んだ。

「前にも言ったが、この村は悪魔の森の王である俺の庇護のもとにある! そこに軍を差し向けるならば、お前たちもただでは済まないぞ!」

 王を名乗るのは相変わらず抵抗があるけれど、ダストン男爵のような人間を相手取るには、必要なことだ。しかし。

「問答無用! 突撃!」

 ダストン男爵の合図とともに、歩兵たちが進み始めた。

「誰がいちばん安全かな……」

 リュカの炎だと、兵士はまず助からない。フェリスの氷でも、大きな傷を負うだろう。フウカの《疾風迅雷》で突進なんてすれば、普通の人間は体がバラバラになってしまう。となれば。

「ホエル、頼みがある」

「どうしたの~?」

 ホエルに作戦を伝えると、彼女はにっこりと笑った。

「わかった~怪我しないくらいに、だね~」

 そう言って、両手を前に向けた。

「《天衣無縫》~」

 重力を操るスキルだ。ホエルの手が白く輝くと、歩兵たちがふわりと空中に浮かび始めた。

「うおっ……!」

「なんだこれは……!?」

 軍勢が二メートルほど浮いたところで、ホエルは《天衣無縫》を解除した。

 ――ズドドドドドドグワシャッ

 歩兵がいちどきに地面に叩きつけられる。しばらくは身動きがとれないだろう。骨を折った者もいるかもしれないが、そこは勘弁してもらうしかない。

「なんだァ!? いったいなにが起こったァ!?」

 兵士たちのうめき声の中に、男爵の叫び声が響き渡る。

 残ったのは騎馬隊だ。馬は《天衣無縫》で死んでしまう可能性があるので、俺が《サンダー》を使った狙撃で、乗り手を痺れさせた。兵士が次々と落馬する。残っているのは、ダストン男爵のもとに残っているわずかな兵だ。

「馬鹿な……クソ……化け物め……!」

 歯ぎしりしながら、ダストン男爵は言った。

 もはや、勝負はついたようなものだ。

 俺がダストン男爵の出方を待っていると――。