チロッと私を睨む。
「目を離したらこれなんだから!」
「まあいいじゃないか」
「良くないっ!」
リュカはぷんすか怒っている。それを笑顔でいなしているソラを見ると、なんだかちょっと胸の奥がざわついた。
「………………」
ふと思いついて、ソラの肩に頭を寄せてみると、リュカはますます顔を赤くして怒り始める。それを無視して目を閉じると、不思議な心地よさがあった。
今だけは、ソラは私のものだから。
* * *
リュカには、しこたま絞られた。俺は寝てただけなんだけどな――。
いつの間にかベッドにもぐり込んでいたサレンは、リュカの怒りなどどこ吹く風といった様子だった。なかなか肝が据わっている。
もうひと働きしようと外に出ると、ちょうど小屋に来ようとしていたフェリスとはち合わせた。
「ソラ、例の連中がこちらに向かっている」
「またダストン男爵か?」
「そうかもな。だが前とは規模が違う」
本気で村を取り戻しに来たのかもしれない。
「一緒に監視棟に来い」
フェリスに続いて監視棟に昇る。肉眼では、軍の姿は見えない。
「あっちの方角だ」
俺はフェリスが指さす方向に、目を向けた。
《スコープ》
エルダーリッチから教わった魔法を、さっそく使ってみる。すると、歩兵を中心とした軍隊が、こちらに向かっているのが見えた。
「……二百人ほどか。けっこうな数だな……みんなに知らせよう」
監視棟を降りて、村の人々に軍隊のことを伝えると、彼らはそろって怯えた表情を浮かべた。
「大丈夫ですかのう……」
「畑仕事に出ていらっしゃる方は呼び戻して、みなさん村の中にいてください。俺たちが外で対処します」
もはや《スコープ》を使うまでもなく、軍がこちらに迫っているのがわかる。鎧の擦れ合う音や、足音が聞こえ始めた。
「片づけるか?」
そう言ったフェリスを、俺は制した。
「いや、まずは話し合いだ」