「ソラ、疲れてない?」

「別に疲れちゃいないよ。まだまだやりたいことがあるし」

「少し、休んだら……?」

 私は思わず、ソラの袖を掴んでいた。ソラが心配だ。でも、たぶんこれは、自分の身を守るため。他に心配する理由なんてないはずだ。

「わかったよ。じゃあ、小屋でひと眠りしよう」

 小屋というのは、あの凄まじい城に繋がっている、あの小屋だ。最近は、リュカたちが休みたいときに使えるように、ベッドが置いてある。

「確かに、ちょっと疲れてるかもな」

 ソラは、ベッドに身を投げ出した。

「ありがとう、サレン……」

 するとそのまま、すうっと眠ってしまった。

「………………」

 なんだか私も、眠りたくなってきた。靴を脱いで、ソラの寝ているベッドに上がる。

「………………」

 ソラは、無防備に寝息を立てている。あの首筋に食いつけば、私はソラの力を手に入れられる。

「………………」

 いや、よそう。吸血の途中で目が覚めれば反撃を受けるし、リュカたちを敵に回すのも得策ではない。

 それに――ソラの寝顔はなんというか、胸の奥の氷を溶かすような、不思議な作用をもっている。私が勝手に、そんなことを感じているだけかもしれないが。

 私は、ソラの隣で横になった。ソラの体温が伝わってくる。

 なんだか、安心する。

 魔王としての力を失って逃げているあいだ、私の心はずっとこわばっていた。それがなんだか、最近は心地よく緩んできている。ソラにほだされてはいけない。私は魔王だ――そんなことを考えながら、私の意識は次第にベッドの奥底に沈んでいった。



 ………………。



 …………。



 ……。



「なにをしているのっ!」

 胸がどきーんとして、私は飛び起きた。リュカだ。

「んん……どうした」

 ソラもゆっくりと体を起こす。

「どうしたじゃないわよ! 添い寝なんて、その……ダメでしょう、ソラ!」

「……どうしてダメなの?」

 私が尋ねると、リュカは口をとがらせた。

「えっと、それは、なんというか、不純だわ! ……私もしたことないのに」