「サレン、ちょっと待っててくれ」
「わかった」
俺は監視棟のハシゴを昇った。
「調子はどうだ?」
「……異常はない」
遠くを見つめたまま、フェリスは答えた。
強い風を受けて、透きとおるような銀色の髪がなびいている。
彼女はリュカたちと違って、あまり村人と交流するということをしない。けれども、こうして真面目に自分の役割をこなしている。
「サレンのことだが……気をつけろ、ソラ」
そう言って、フェリスはこちらを見た。
「お前を、狙っている」
「なんとかするさ」
俺はフェリスの肩を叩いた。
「あの子も、なにかが変わってきているのを感じる。悪いようにはならないよ」
「そうか。ソラが言うのならそうなのだろう」
「心配してくれてありがとうな」
俺が頭を撫でると、フェリスは気持ちが良さそうに目を細めた。
下に降りると、サレンが待っていた。
「これからどうするの?」
「やることは山ほどあるさ」
道路は整備したし、村の人々の家も新しく建て替えた。けれどもまだ必要な施設がある。たとえば今も、昔からの習慣で、行商の人と広場で商品をやりとりしている。村が大きくなった今は、専用の集荷場なりを設けた方がいいだろう。
広場は基本的に憩いの場にしたい。噴水やベンチを造れば、ぐっと雰囲気が出るのではないだろうか。
そうなると、まずは川から地下を通して水を引くか。いや、それよりは地下水を利用した方が早そうだ。エルダーリッチから教わった《透視》と、俺の《鑑定》の合わせ技で、地下水までのおおよその距離は――。
「ソラ、疲れてない?」
ふと気づくと、サレンが俺を見上げていた。
* * *
ソラはおそろしくよく働く。おかげで村はもはや町と呼ぶ方がふさわしい規模になっている。なにがソラをここまでせき立てるのだろう。
私が案じているのは、ソラが働きすぎで倒れることだ。ソラが動けなくなってしまえば、私の身に危険が及んだときに対処できなくなってしまう。
たとえば、あの勇者どもがこの場所を聞きつけたり。そんなときにソラが動けなくては、私は破滅だ。