* * *
「獲物は見えているな」
エルダーリッチが言った。
ここは村の近くの山中だ。
俺はそこで、“五百メートル先”のイッカクシカを見つめていた。
「ふむ、《スコープ》に関しては合格のようだ」
そしてエルダーリッチは背後から、俺の右腕をそっと掴んだ。柔らかい胸が二の腕に当たっているのが非常に気になるが、今は集中だ。
「このあたりに、魔力を込める。出力について心配はしていないが、必要なのは正確さだ」
俺はエルダーリッチに触れられた部分に、意識をやる。徐々に温かくなってくるのがわかる。
これが魔力の流れだということだ。
「この状態を維持しながら、狙いを定めるんだ」
俺は右腕を、すっと前に掲げた。
「そして発動する瞬間だけ呼吸を止める」
手のひらに意識をやった瞬間、俺の手のひらから青い雷が放たれる。それは一瞬にして五百メートル先のイッカクシカへと向けて迸り、獣を昏倒させた。
「よくやった。《サンダー》による狙撃も合格だ」
《スコープ》はその名の通り、遠くのものを捉えるための魔法だ。しかし《スコープ》を発動しているエルダーリッチの目を《分解》するわけにはいかないから、魔力の使い方を直接教わらなければならない。また《サンダー》も同じことで、電流を《分解》するという荒技で習得することはできたものの、それを正確に使いこなすには、やはりエルダーリッチの指導が必要だった。
「しかし、なにをやらせても飲み込みが早いな。やはり君は私の自慢の弟子だよ」
「自慢の師匠がいるからだよ」
俺がそう言うと、エルダーリッチは俺の頭をコツンと叩いた。
「師匠とは呼ばない約束だろう」
「そうだった。ありがとう、エルダーリッチ」
「修練の後に礼を言えるとは、やはり余裕があるな君は」
確かにエルダーリッチの言うとおり、俺はあまり疲れていない。いつの間にか手に入れていた大量のMPを使い切るような魔法は、まだ教わっていないというのもある。
魔法の習得と、村で錬金術を使いまくったせいで、レベルも上がっているかもしれない。
俺はステータス画面を開いてみた。
名前:如月 空
年齢:20
性別:男
称号:悪魔の森を統べる王