「あの魔物と魔王を連れて、領地を占領し、女をはべらせ……これは明確に権力を欲している証左かと」
「うむ」
国王は権力の象徴である王冠を被りなおした。グルーエルは続ける。
「陛下の臣民を奴隷として国を興し、魔王の力を復活させ、更には、あの怖ろしい魔物の力を使い、国を征服する心づもりに違いございません……」
「なんということだ……」
悪意を振りまく者の眼は、他者の悪意を幻視するものだ。国王のなかでソラは、奴隷を使って国を破滅に追いやる悪魔と化した。
「こうなれば、勇者たちをぶつける他はあるまい」
「その通りかと存じます。勇者たちもあの後、訓練に励んでおるようです。彼らが力を合わせれば、あの魔物にも遅れを取らぬかと……」
「ふむ。では早速ここに連れて参れ!」
国王の頭の中では、あのSランクの魔物の姿が、まざまざと浮かび上がっていた。
「勇者たちであれば、必ずや……」
国王は汗ばんだ手で、錫杖を握り直した。
* * *
王城から村に向けて、馬車が走っていた。乗っているのは勇者一行だ。
「あのよォ……」
勇者パーティーの中でいちばん気の強い破壊神カンジ。しかしこの男らしくない不安げな表情で、彼は勇者アキラに尋ねた。
「あの魔物に、勝てると思うか?」
「そのために、僕らは訓練を積んできたんだ……」
アキラは応える。しかしその言葉に、力強さはない。
それよりは、悔しさがにじみ出ていた。ユニークスキルを持たないことで、国王から追放されたクズ、如月空。それが今や、魔王を超えるほどの怖ろしい魔物を使役する、おぞましい存在になって帰ってきた。
「勝てるさ……きっと……」
覚悟だけでは、どうしても届かない存在があるという事実を、アキラは噛みしめていた。
しかしそれ以上に悪意を募らせているのは、
「許さない……絶対に許さない……」
魔女ナナだ。《遠隔透視魔法》を使った際に、あの魔物から直接的な大ダメージを受けた唯一の存在。眼は未だ癒えておらず、黒い眼帯を巻いていた。
「あいつ……魔物を倒したら必ず殺す」
そんな三人をどう宥めたらいいのか、必死で考えているのが聖女マイ。彼女自身は、ソラをどうこうするよりは、仲間の安全のことを考えていた。
「みなさん、落ち着いて対処しましょう。そうすれば……」
マイの言葉は、誰にも届いてはいない。