キャリーカートに薪を載せて、転がしてみせる。それを老人に手渡すと、その軽さに驚いた様子だった。
「おお、これなら腰を痛めずに運べるわい! ソラどの、本当になにからなにまで……感謝のしようもありませんじゃ!」
老人は軽やかにキャリーカートを牽いて、石畳の道を歩いていった。
「こういうことからコツコツとだな。やりたいことはいっぱいある」
この村は、もう悪魔の森の庇護下なのだ。俺は責任を持って、村の発展に尽くさなければならない。
というのもあるけれど。
「こういうの、好きなんだよな」
「なにがですの? お兄さま」
「サンドボックス系のゲームってのがあってさ。いい感じに人々の暮らす町を作ったり、みたいな。コロニーシミュレーションっていうのかな」
「芸夢って、エルダーリッチが作ったアレですの? わたくし、得意ですわ!」
「説明が難しいな……」
ともかく、村の大改造にワクワクしているのは事実だ。小さいものはキャリーカートから、大きなものは公衆浴場まで。それでも、まだまだ良くできるはずだ。
* * *
国王は、苦虫を噛み潰したような顔で、錫杖を何度も絨毯に叩きつけていた。
「なんとしても魔王を見つけださねば……」
なにせ魔王討伐完了を宣言し、大陸全土の国からすでに報奨金を受け取っているのだ。
今更「やっぱり取り逃しました」などと言って返せるはずもない。この事実が明るみに出れば、あらゆる国から非難を浴びることだろう。
「あの小娘が魔王だということは、まだ漏れてはおらんだろうな」
「はっ」
王宮魔術師グルーエルは、静かに答えた。
「我が国の兵どもにも“魔王の娘”ということで通しております」
「しかし大臣どもは知っておるわけであろう? もし内通者がいればわしは破滅だ……あの錬金術師め……どうやって悪魔の森を脱出したというのだ……」
王冠を持ち上げて、頭をバリバリと掻いた。
「それに、まさかあんな怖ろしい魔物を使役して、魔王を連れ去るとは……見つけ次第磔に……火炙りに……」
国王は、ソラ自身が力を持っていることに気付いていない。あくまでミラクルスライムのミュウが、ソラの唯一にして最大の戦力だと考えていた。
「それに〈魔力核〉の件も、どうかお忘れなきよう……」
「わかっておるわい!」
国王はグルーエルを睨みつけた。
「魔王の存在が、それを操る鍵だと言うのであろう」