ダストン男爵は悔しげに歯ぎしりをする。兵士たちではとてもかなわないことは、さっきのリュカの実力で思い知っているはずだ。残った兵士が倒れた兵士を起こして、馬の背に乗せた。

「追って沙汰を下す! 見ておれ!」

 ダストンの馬車は、逃げるように村を去っていった。

 俺はほっと、息を吐いた。

「ごめんなさいソラ、私……あの男が許せなくて」

 リュカが申し訳なさそうに言った。俺はその頭にぽんと手を置く。

「いや、俺も同じ気持ちだったよ」

「ソラどの!」

 村長が歩み寄ってくる。

「すみません、村の行く末がかかっていることを、勝手に……」

「いや、わしらが心から願っていたことをしてくれた……これからこの村の領主はソラどのじゃな!」

 村の人々が集まってきた。

「みんなソラどののおかげじゃ! 男爵がなんじゃ!」

「そうじゃ! もう男爵に搾り取られることもない!」

 ダストン男爵に対して、よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。村のひとりが、俺に言った。

「申し訳ない、ソラどの。わしは魔物をひきつれとるあんたが怖かった。いくら良くしてくれても、いつかひどい目に遭うのじゃなかろうかと……」

 村人は、目をうるませていた。

「さきほどの言葉は、わしらのことを心からおもうてのものじゃと感じたわい……」

「そうじゃ」

 村長が言った。

「ソラどのは強い力を持っているだけではない。その力にふさわしい人徳を備えてなさる。わしらの村を治めるのに、これほどの方があるじゃろうか?」

 村長は俺の前で膝をついた。

「悪魔の森、じゃったな。怖ろしい名じゃが……わしらは喜んで、悪魔の森の庇護を心から受け入れますじゃ」

 それを聞いて、村の人々から拍手が起こった。子供たちも、喜んで手を叩いている。

「もうダストン男爵に、食べ物を持っていかれずに済むんだ!」

「ありがとう、ソラさん!」

 村の人々が受け入れてくれて良かった。これで、外の本拠地は完全にこの村と決まったわけだ。

「……ソラ」

 ふと隣を見ると、サレンがいた。

「ソラは、魔物を率いる王様なんだよね?」

 リュカたちから、何か聞いたらしい。

「一応、そういうことになってるけど……」

「でも村を支配してるようには見えないよ」

「そうだな」