「悪魔の森、原初の五柱が一角、獄炎竜リンドヴルム! ソラに名前をもらって、いまはリュカと呼ばれているわ!」

 堂々と名乗りを上げたその拳には、いまだ炎が揺らいでいる。

「そのあたりにしておこう、リュカ」

 俺は肩を叩いて、これ以上の追撃を制する。

 マズいことになってしまった。

 リュカの言い分は当然だ。しかしこの村の領主と明確に対立するということは、王国を敵に回すことになる。

 ここで俺が頭を下げてこの村を去れば、ダストン男爵も九割の税なんて無茶は言わないのではないか。いや、目の前のこの男がそんな温情を持っているとも思えない。

 どうすれば良いのか、俺はすぐこの場で決めなくてはならなかった。

「………………」

 そもそも、俺はなぜ村の人たちを助けたのか。

 外の世界の情報が欲しいから。

 それも偽りのない理由だ。

 でも本当は――。

「ソラ」

 俺に呼びかけたのは、エルダーリッチだった。

「君には力がある。この村を救うことを決めたときのように、やりたいことをやりなさい」

「………………」

「ソラどの……」

 村長は、すがるような目つきで言った。

「わしらは……もはや限界じゃ……もうこのままでは……」

 俺も、村の人々も、覚悟を決めなければならない。

「本当に、いいんですね?」

 王国を敵に回すと言うことは、村が孤立することに繋がる危険がある。

 しかし村長は、深く頷いた。

「このままでは、どうせ死ぬだけじゃ……それなら、わしは生きることに賭けたい……!」

 貧困に落ちくぼんでいた村長の目は、光を取り戻しつつある。

 それはきっと、他の人々も同じはずだ。

「……俺は、その賭けに乗ります」

 腹は、決まった。

「ダストン男爵」

 俺は宣言した。

「この村は悪魔の森、その王の庇護下に置く。これから先は、一切の干渉を認めない。当然、収穫物の献上も無いと思ってもらおう」

 ダストン男爵は目をむいた。

「悪魔の森ィ? この私に逆らうということは、王国に弓を引くことも同然だぞ!」

「それで結構だ」

「この小僧が……」