「そんな……!」

 村長の声は、絶望に満ちている。俺は思わず口を開いた。

 リュカの眉がぴくりと動く。

 俺は一歩前に進み出た。

「それはあんまりじゃないですか」

 俺がそう言うと、兵士たちが次々と馬を降りてきた。

 ダストン男爵は口髭をひねった。

「なるほど、お前が例の錬金術師か。国のために尽くしたこと、褒めてつかわす」

 それを聞いて、俺はリュカの様子を窺う。

 リュカはかつて悪魔の森で、魔物たちの平和のために苦心していた。

 傲慢な領主というものに対しては、看過できないものがあるはずだ。

 赤く燃える瞳は、じっとダストン男爵を見つめている。

 再び俺は、ダストン男爵へ向き直った。

「収穫物を九割も持って行かれたら、彼らは生きていけません」

「創意工夫すればよかろう」

 ダストン男爵は、そんなことは当たり前だろうと言った様子で、ため息を吐いた。

「豊かになったからといって、お前たちがそれに甘んじてどうする。どれだけ土地が肥え太ろうと、お前たちはお上のために尽くし、貧相に痩せているべきなのだ。それが正しい民の姿ではないか」

 これがいけなかった。

「……ちょっと待ちなさい」

 とうとうリュカの逆鱗に、触れた。

「縄張りを治める者は、そこに住まう者が豊かに暮らせるように、見守るべき存在よ。それをあなたは……」

「なんだ、この小娘は」

 ダストン男爵は、呆れた顔でリュカを見た。

 リュカがずかずかとダストン男爵に向かっていくと、その行く手を兵士がふさぐ。

「そこで止まれ!」

「黙っていなさい!」

 リュカは兵士を一喝する。

「貧相に痩せているべき? 大地の豊かさは、そこに住まう者が享受するものよ……そんな当然の秩序がわからない奴に、縄張りを治める資格はないわ!」

 しかしダストン男爵はそれを鼻で笑った。

「やかましい小娘だな。捕らえろ、檻にでも入れておけ」

「はっ」

 兵士が動き出したその瞬間、握りしめたリュカの拳が炎を纏った。もはや止める暇もない。

「ごふっ!」

「ぐはあっ!」

 灼けた拳で鎧を砕かれた兵士たちは、次々と昏倒していく。

「な、なんなんだお前は……」

 ダストン男爵は、怯えた表情であとずさる。