「確かに良いホクホクカブだ。だからこそ許せん。民は生かさず殺さず、だ」

 そうつぶやいて、ナプキンで口を拭った。


  *  *  *


 俺は村長の家で、村役場を造る計画について話をしていた。

「最近は村人も増えたし、わしひとりでできる仕事は限られとるからのう……」

「そうですね。村人の何人かを事務員というかたちで雇って……」

 そのとき、ドアが音もなく開かれた。

「ソラ」

 フェリスだ。

「馬を引き連れた馬車が、村に近づいている」

「行商の人かな」

「いや、違う。ヨロイが擦れ合う音がする。ミュウが倒した連中のような」

「となるとサレンを追って……いや、そうじゃないな」

 この村では、サレンは帽子を被った少女でしかない。思えばこの村の急速な発展を、治めている人間が放っておくはずはない。

 良くも、悪くも。

 この村を国王が直接管理しているとは思えないから、きっとここ一帯の持ち主である貴族のような人間がいるに違いなかった。

「村長さん、ここを治めている人はどんな人ですか?」

「ダストン男爵が、この村の領主様じゃ……」

 村長の表情を見れば、そのダストン男爵とやらが、どんなふうに村を扱っているかは見てとれた。

 ロクな人物ではなさそうだ。

 俺たちが村長の家を出ると、リュカたちも町の入り口に集まっていた。

「サレンを追いかけてたのと、同じような連中よ」

「でも、目的は違うらしい」

 村の入り口に馬車が止まった。

 兵士のひとりが馬から下りて、ドアを開ける。出てきたのは、パイプをくわえ、油で髪をぴっちりと撫でつけた男だった。

「なるほど、大した発展ぶりだ。見違えるようだな」

 言葉とは裏腹に、ダストン男爵は憎らしげに村を見渡した。

「ダ、ダストン男爵……どのようなご用件で……」

 村長がおずおずと前に出た。

「村の視察に来たのだ」

 ダストン男爵は口の端をゆがめた。

「ずいぶんと豊かになったようだからな、新たな税制を敷かねばな」

 パイプの煙を、ふっと吐いて言った。

「良いか村長。これからは、あらゆる収穫物の九割を献上せよ」