じゃあ、そんな状況になったらどうするのか――なんてことを聞かれる前に、俺はエルダーリッチに礼を言うと、さっそく村の改善にとりかかった。食料の次は、衛生環境を考えなくてはいけない。

 土地の広さを考えると、城にあるような大浴場は造れないけれど、村の人々が不便なく使えるような公衆浴場を建てた。

「これが……風呂というものですかな……?」

 風呂に入る、という習慣は彼らにはなかったらしい。

「いつもはどうやって体をきれいにしていたんですか」

「そりゃあ、布で体を拭いていたんじゃが……こんなにたくさん水を使って大丈夫なんですかの?」

「心配いりませんよ」

 それは、リュカとミュウの三人で散歩していたときのことだ。


  *  *  *


「ソラ、外の世界って、どこまでも遠くが見渡せるのね」

「そうだな」

「みゅ!」

 地平線なんてものは、俺がいた世界でも見たことがないかもしれない。

 村長の話だと、その遠く向こうに海があるそうだ。

 いつか、みんなと行ってみたいと思う。

「外の世界、楽しいか?」

「ええ、楽しいわ」

 そう言って、リュカは俺の腕に手を回した。こんなふうにむぎゅうっと体が押しつけられると、理性を保つのになかなか苦労する。俺の仲間たちは基本的にボディタッチが激しい。これも修行だと割り切るしかない。

「ソラ、エッチナコト、カンガエテル!」

 ミュウはそんなことを言って、すねにぽいんっとぶつかった。

「ソラ、私は別に、その……」

 そんなことを言いつつ、リュカは俺の腕にぎゅうっとしがみついた。

 今更後に引けない、みたいなものを感じる。

 何かフォローしないといけない。

「大丈夫、そういうの、ないよ、大丈夫」

「そう……よね」

 俺は嘘をつきました。

 そういうの、ないわけがないです。

 ミュウがぽいんぽいんすねにぶつかってくるけれど、気にしないことにする。

「まあ、その、なんだ。こういうの、楽しいよな」

 話題を逸らしたいというのもあったけれど――目的もなく、知らない場所を探索するのは、本当に久しぶりだ。