「おやすみ」

 ソラが言うと、ランプの灯りがフッと消えた。

「……ソラ」

 私は体を揺すって、ベッドの中で距離を詰めていく。

「私……寂しいの……」

《魅了》――吸血鬼の持つスキルのひとつだ。空には、今の私が吸い付きたいほど魅力的に見えているはずで――。

「そうか」

 ソラは、私の頭をさらさらと撫でた。

「なあ、サレン。そんなスキル使わなくても、俺は君の仲間だ。心配しなくてもいい」

 ――バレている! しかも効果がない! 私とソラで、どれほどのレベル差があるというのだろう。私だって力を失っているとはいえ、魔王と呼ばれていたのだ。

「………………」

 こうなったら、物理的な方法をとるしかない。

「体が……熱いの……」

 私は、さらにソラに近づいた。こうなったら、私の生まれ持った色香を使ってソラを落とすしかない。すると。

「それならミュウを抱いて寝るといいぞ。ひんやりして気持ちがいい」

「みゅ!」

「う、うん……」

 結局私の目論見は外れ、ミラクルスライムを抱えて眠ることになってしまった。

 ――たしかに、冷たくて気持ちいい。


  *  *  *


「ソラ、サレンに心を許しすぎだ」

 朝食が終わると、エルダーリッチに呼び出されて、そんなことを言われた。

「魔力の残滓が残っている。《魅了》を使われたな。まあ、君に効くとは思えんが」

「きっと寂しいんだよ」

 俺がそう言うと、エルダーリッチはため息をついた。

「君は鷹揚というかなんというか、まあいい」

 エルダーリッチは、まっすぐ俺の目を見た。

「レベル12とはいえ、サレンはただの吸血鬼じゃない。日光をものともしないデイウォーカーだ。そしてあの角……必ずなにかある。油断は禁物だ」

「心配ありがとう。でも、いつも周りにみんながいるから」

「サレンとはまた違う意味で、“狙われて”いるようだがね。君はもっと奔放でいいのだよ?」

「今はそんな状況じゃないだろ」