「この村で、いちばん大きい鍋はありますか?」
「祭りで使う大鍋がある……ここ何年も使っていないがのう」
村長にボロボロの納屋に案内された。
ふたかかえほどある大鍋が、埃を被っている。
この大きさなら十分だろう。
「では、これをお借りしますね」
よいしょ、と俺が鍋を持ち上げると、村の人々がどよめいた。
「な、なんという怪力じゃ……」
「若い男が五人おらねば持ち上がらぬ大鍋を……」
たいして重たいとは思わないんだが――悪魔の森で鍛えられたおかげで、知らないうちに力がついていたらしい。
「ホエル、そこの土台を頼むよ」
鍋を支える土台は、鍋の倍くらいはある。しかし力持ちのホエルなら、フラフープくらいにしか感じないだろう。
それはかつて悪魔の森を統べてきた、他の仲間にしても同じかもしれないが。
「は~い」
ホエルは予想通り、片手でひょいっと土台を持ち上げる。
また村の人々がどよめく。
「あのおなご……まさか悪魔の類いでは……」
「そうに違いない……どうか子供たちだけは……」
「なにもしませんって」
俺は苦笑いしながら村の中心まで鍋を持って行くと、ホエルが置いた土台の上に据えた。
そしてホクホクカブをカゴごと持ってきて、さっきの要領で成長させる。
村の人々に大きなホクホクカブを渡して、切ってもらう。
その間に鍋の埃を、ボロ布を借りてきれいに拭った。そして、土台の下に大きめの石を積んでいく。
「フェリス、氷を鍋に敷き詰めてくれ」
「任せろ」
フェリスが片手を掲げると、鍋の上で氷の塊が次々と発生して、鍋に降り注いだ。村の人々は、あんぐりとその光景を見つめている。
「あとはこいつだな」
リュックに入った干し肉を、全部鍋に放り込んだ。岩塩もいくつか。近くに森もあることだし、肉の調達はなんとかなるだろう。塩に関しては、エルダーリッチから学んだ《門》を使って、悪魔の森の洞窟に取りに行けばいい。
村の人々もホクホクカブを切り終えて、おそるおそる鍋に入れていく。
「よし、仕上げはリュカ、頼んだ」
「わかったわ!」
リュカが腕をひと振りすると、土台の下に炎が吹き上がった。それが消えると、さきほど積んだ石が赤熱している。この熱で調理するというわけだ。
「しばらく待てば、できあがりますよ」