「ひいっ!」
畑を耕していた老人や子供は、ミュウを見るなり、鋤を放り出して村の奥に逃げ込んだ。
「やはり歓迎は……されないか」
村の入り口でしばらく考え込んでいると、さっきとはまた別の老人が現れた。
おそるおそる、と言った様子で近づいてくる。
「わしは……ここの村長じゃ……」
恐怖をこらえるようにして、村長は言った。
「わしらのようなもんは、煮ようが焼いて食おうが構わん……しかし子供達だけは……子供達だけはどうか見逃してはくれまいか……」
そう言って、村長は地面に手をついた。よほど、俺たちが凶悪に見えているらしい。ミュウを連れているだけでこの有様だから、よほど魔物というものが怖れられているのだろう。
「顔を上げてください」
俺はなるべく村長を刺激しないように言った。
「この村がどういう状況か、ある程度は把握しています」
「わしらを襲いに来たわけでは……」
「俺たちは、あなたがたの力になりたいんです」
その言葉を皮切りに、隠れていた村の人たちが次々と姿を現した。
「力になる……というと?」
「まずはそうですね、ご飯かな」
俺はうち捨てられたカゴからこぼれた、痩せた根菜を手に取った。
《鑑定》
〈ホクホクカブ〉
俺はさらに《鑑定》を試みて、それが何でできているか、どのような養分によって成長するのかを確かめた。
「必要なのは窒素、リン酸、カリウム……」
無数の物質を、洗い出していく。
「そして光合成で生成されるデンプンにショ糖、それから水分……」
俺はそれら必要な物質を大地から《抽出》し、痩せたホクホクカブの表面に定着させる。そして再び《合成》を行う。
すると。
「おおっ……!」
村の人たちからどよめきが起こった。ホクホクカブが、どんどん膨らんでいく。つややかでずっしりとした白い輝きを放ち始める。俺はそれを村長に手渡した。
「こんなホクホクカブを見たのは何年ぶりじゃろう……いったいどうやって……」
「俺は錬金術師です。これくらいのことはできます」
「そなたは錬金術師であったか……錬金術師がまさか、こんな村に来てくださるとは……!」
村長は涙まで流し始める。
そのままかぶりつこうとする村長を、俺は止めた。
「せっかくですから、消化の良いスープにしましょう」
おそらく村の人々は、長いことまともな食事を取っていない。そこでいきなり生の野菜をたっぷり食べたら、消化不良を起こすかもしれない。