「私はそもそも、外の世界に住んでいた人間だ。ある程度のことはわかる。しかし何百年も時が経過したいま、その知識がどこまで通用するかは未知数だ。大切なのは、なにが危険で、なにが安全かを知ることだ。それは悪魔の森で生き抜いてきたソラにもわかることだろう」

 エルダーリッチの言うことはもっともだ。

「私はね~可愛いからいいんじゃないかと思うよ~」

 いまこの中で、ホエルだけが微笑みを浮かべていた。

「ソラ、ヤサシイ、アノコ、ツレテイク!」

 俺のすねにぽいんっと体をぶつけてくるのはミュウだ。そもそもサレンを助けたのはミュウだった。

 というわけで議論が紛糾してきた。

「こんな話を、いつまで続けるつもりだ」

 と言ったのはフェリスだ。

「私たちは“原初の五柱”としてソラを王と認めたのだ。決断すべきはソラだ」

「それは確かに……そうね」

 リュカの言葉で、みんなの視線が俺に向く。俺としては、答えは決まっていた。

「サレンを連れていく」

 もちろん理由はある。

「俺たちは、外の世界のことをまだなにも知らない。やはり案内役は必要だ。それに」

 俺は悪魔の森での生活を思い返しながら言った。

「ここでサレンを見捨てるような俺たちなら、いまここにいないはずだ」

 みんなが頷いた。

「ソラがそう決めたのなら、それでいいわ」

「しかし警戒は怠るなよ、ソラ」

「そんなことを言って、リュカさんもフェリスさんも、競争率が上がるのを怖れているのではありませんの?」

 フウカがニヤリと笑う。

「そんなわけないでしょ!」

「ゲスの勘ぐりだ」

 こんなときは、リュカとフェリスも息が合うらしい。俺たちは花畑に向かって歩き始めた。

「ソラ」

 エルダーリッチが言った。

「本来、吸血鬼という種族は角を持たない。サレンが特殊な存在であることは確かだ。フェリスの尻馬に乗るわけではないが、注意は怠らないように」

「わかってるよ。君たちに危険を冒させるようなことはしないつもりだ」

「ソラ~」

 ホエルが、俺の首をきゅっと抱きしめる。大きくて柔らかいものが二の腕に当たる。これにはなかなか慣れない。

「ソラはね~そういう優しいところ大事にするといいよ~」

「その、なんだ、ありがとう……」

 そうしているうちに、サレンが花を摘んでいるところへと辿り着く。