そして何よりステーキだ。モモイノシシの稀少部位は、普段細かく分けて使っていたのだけれど、今回はひとりひとり、一頭まるごと使っている。500gほどの大ボリューム。しっかり下処理をして柔らかくしてあるから、すっとナイフが通る。噛めば脂が染み出てきて、香辛料のピリッとした刺激と共に、口の中にじゅわっと旨味が広がる。味付けは洞窟で採取した岩塩に、少しだけトコトコトリュフを足してある。デミグラスソースを絡めても美味しい。

そしてこってりした口の中を、爽やかな甘みで風を吹かせるシャーベット。エルダーリッチは、ほっぺたに手を当ててとろけていた。

「なんという幸福だろう……」

「そうそう、これが幸福なのよね……」

うんうんと頷くリュカ。

「そういや、こういうことを聞くのはアレなんだけどさ」

おそるおそる、尋ねてみた。

「君らはみんなエルダーリッチの大迷宮に閉じ込められていたわけだろう? その、恨みとか、そういうのはないのかなって……」

それを聞いて、四人は顔を合わせる。

「別にないよ~」

シャーベットを食べながら、なんでもないという顔でホエルが言った。残りの三人が頷く。

「私はここで生まれて、ここで育ったのよ。いまの私を作ったのはこの森だわ」

リュカの言葉を、フウカが継ぐ。

「そもそもわたくし、出ようという発想がありませんでしたわ!」