バンバンと背中を叩かれた。確かに、彼女の長い孤独を思えば、俺のような人間の存在は大きいのだろう。あまりに買いかぶられているとは思うけれど、悪い気はしない。それにはっきり言って、魔法にはとても興味がある。

「わかった、俺は弟子になるよ。よろしく頼む、師匠」

「エルダーリッチと呼んでくれて構わんよ」

髪をさらっと払って、彼女は言った。

「名前がないわけではないがね。外の世界でそれを出すのは、ちょっと不都合だからな」

俺が知らない何かがあるらしい。けれども、追及は避けておいた。名前を隠すというのは、それなりの事情があるのだろう。

「魔法も知りたいんだけれど、もうひとつお願いがあるんだ。俺たちに外の世界のことを教えて欲しい」

「ああ、なんでも話そう。君は私の弟子なのだからな!」

「ソラ、マホウツカイ、ナル?」

ミュウが、ぽいんと跳ねる。

「ああ、なれるかもな」

「心配するな、君は最高の師匠を得た」

エルダーリッチはそう言って、胸を張った。

「さっそく授業だ。その【門】を使ってみたまえ」

目の前には、相変わらず黒い板があるばかりだ。

「なに、心配することはない。行きたい先を強く念じさえすれば良いのだ。それで君は、好きな場所へと行ける」

「好きな場所へ、か」