俺は椅子から立ち上がった。そしてなるべく明るく振る舞って、別の世界からこの世界に呼び出されたこと。そしてハズレスキルを引いた役立たずとして、この森に転移させられたことを語った。

「………………」

エルダーリッチの陶器のように白い顔が、更に色を失った。固めたこぶしが、震えている。人間のため、魔物を閉じ込めるために作り上げたあの大迷宮が、当の人間によって悪用されていたのだ。エルダーリッチのショックは、察して余りある。

「そんな……」

唖然とした表情で俺を見つめた。

「この森がそんなことに使われて……」

エルダーリッチは俺に歩み寄ると、とつぜん抱きついてきた。驚きつつも、やっぱりニオイを嗅いでしまう。やっぱりゾンビっぽくないな……などと思っていると、彼女は俺の頭を撫でてきた。とても――とても優しい手つきで。

「本当に……つらかっただろう……よく生き延びて、ここまで頑張ったな……」

頭を撫でられるなんて、いつぶりのことだろう。目頭が熱くなる。鼻の奥がツンとする。

「みんなが……みんながいてくれたから……」

「お前が彼女らをまとめ上げた。それは私にもよく分かる。それがお前の力なんだ、ソラ。誇って良いことだ」

「同意見だけど、ソラから離れて」

リュカとフェリスが、俺とエルダーリッチを強引に引き剥がした。

「抱き合わないとできない話ではないだろう」